研究実績の概要 |
本研究の目的は、最近の身体研究(身長や栄養など)や人口学研究(乳児死亡)の知見に基づき人的資本の成長の痕跡を再構成し、それと実質賃金や所得で計測した経済成長の軌跡との比較を通じて、人的資本の根幹である人間の生理学的な成長とマクロ経済的な成長を結び付ける可能性を近代日本の学童研究を通じて探ることである。 本年度は、完成したプラットフォームにおいて、入力全数データを対象とした、分類・抽出・データ加工・記述統計の分析とその表示の最終確認を行った。その後、中心史料である座光寺尋常高等小学校の学籍簿のデータファイルを使い、分析を進めた。個別の分析課題として、1)出生順位(学籍簿に表記された親との関係)と身体体格の成長との関係:ここでは第1子と第1子以降の児童の身体成長格差を検証することを通じて、世帯内の資源再配分状況に性差や年齢差が確認できるかどうかを確かめる、2)就学継続児童と就学停止(就業・退学)児童の身体成長軌跡の比較:どのような体格的特徴をもった児童が就学(就業)を継続するのかを確かめることにより、経済史の二重構造論で対象となる学童期の人的資本の身体的特徴を知る手がかりとした。実際には、地域の副業状況や世帯の就業環境の変化に対して、学童の体格成長がいかに反応したのかを中心に考察を行った。その結果については、"Height, nutrition and the side production of sericulture and carp feeding in modern rural Japan: the case of Zakouji-village, Shimo-Ina gun, Nagano, 1880s-1930s"にまとめ、英文論文として国際学術雑誌(Australian Economic History Review)へ投稿し、現在審査中である。
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