研究課題/領域番号 |
16K03783
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
山崎 志郎 首都大学東京, 経営学研究科, 客員教授 (10202376)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 物資需給計画 / 指定生産資材割当規則 / 指定配給物資配給手続規程 / 配給公団 / 配給統制機関 / 自治的統制 / 臨時物資需給調整法 / 反カルテル・トラスト課 |
研究実績の概要 |
戦時から戦後の配給統制システムの事例として、カーバイド統制株式会社の業務を解明した。カーバイドの需要は軍需、金属の切断熔接、化学肥料原料など複数の重要分野にわたっており、その厳格な配給統制が求められていた。本研究では、昭和恐慌期の共販会社による価格カルテル業務、戦時から戦後にかけての配給統制業務を内部資料に使って明らかにした。その結果、1944年以降、計画生産が不調になるなかでも、配給統制業務が厳格に遂行されていたこと、終戦直前・直後の統制方法の改変が中央・地方行政の混乱、同社内部でも本社・地方機関との間に混乱が生じ、闇取引が頻発するようになったこと、その中で配給規則の厳格な運用に努めていたことが判明した。この研究成果は、2018年秋に学会報告を行ったほか、論文としてもまとめた。 次いで、戦時の物資動員計画から戦後の物資需給計画への切り換えにおける、配給統制方法の「民主化」の実態を、商工省、経済安定本部の内部資料から明らかにした。この結果、商工省が戦時同様の需給計画化に当たって、需要団体、生産団体の組織化や一手買取販売機関の必要性を強く主張し、経済民主化、独占禁止政策との折り合いを付けるべく、種々の配給システムの改善提案をしていたこと、GHQ経済科学局反カルテル・トラスト課の市場原理主義的主張と繰り返し交渉を続け、公団方式にたどり着いたこと、その後もさまざまな改善を試みながら、多くが反カルテル・トラスト課に阻まれたことなどを解明した。戦後の経済復興が大幅に遅れた原因には過度な信用膨張、インフレーション、賃金圧力の上昇、闇経済の跋扈などが取り上げられるが、本研究では厳格な需給統制計画の実施をGHQによって阻まれ、不必要に制度改変を続けたことにも大きな原因になったことが明らかにされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年度は、①配給統制機関の事例分析(カーバイド統制株式会社)についで、②戦後配給統制方式をめぐる経済思想史的争点を解明し、③繊維・繊維製品配給方式の変遷を検討する予定であったが、②の配給統制方式をめぐる思想史的論点を一次資料の発掘に基づいて整理したのち、国立公文書館つくば分館に所蔵された行政資料の中に、政策の変遷を明らかにする資料が多く含まれていることが判明した。このため、②の研究計画を終戦直後の統制思想の問題だけでなく、1947年度までの配給統制方式の変遷を解明することとした。この点は、2019年5月頃までに論文としてまとめる予定であるが、研究計画③の繊維・繊維製品の配給統制の変遷について、概要をメモにまとめたに止まった。その結果、繊維統制会や各地繊維製品配給統制会社、織物統制組合などの内部資料の検討は2019年度の課題にすることとし、研究計画を1年延長することとした。 また、2017年9月に勤務先が変わり、さらに同年度末に勤務先のキャンパス移転があり、2度にわたって書類、資料、図書の移動があったため、資料解読作業が大幅に遅れたことも、全体計画が延びる原因になった。
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今後の研究の推進方策 |
①2019年度には、戦後配給統制システムの変遷に関する研究成果を論文にまとめるとともに、学会報告を通じて広く成果を還元する。 ②次いで、資料収集を概ね終えている戦時下の繊維統制会の内部資料、岐阜県織物組合の戦時戦後生産統制、神奈川県繊維配給株式会社の戦時戦後の資料を利用して、繊維配給、生産統制、繊維製品配給といった一連の統制システムの変遷を解明する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
勤務先の変更、キャンパスの移転などで予定していた資料の調査時間が十分に取れなかったことと、新たに利用可能な戦後政策資料が見つかったことで、資料集費用を次年度に持ち越すことになったため。
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