研究課題/領域番号 |
16K03786
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
野村 親義 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 准教授 (80360212)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | インド / ビジネスグループ / 経営代理会社 / 財閥 / 機能補完性 / 制度補完性 / 植民地 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、経済自由化以降インド経済をけん引するインドのビジネスグループ(財閥)の歴史的起源を、ビジネスグループの前身である経営代理会社の機能解明を通じ、明らかにすることである。本研究は特に、経営代理会社が傘下企業に、資金融資、人材育成など相互に補完的な多様な機能を通じて影響を与えていたことに注目しつつ、各々の機能の内実とこれら機能が傘下企業の効率性・生産性に与えた影響を、未利用内部文書や最新の経済理論を用いて解明することを、特筆すべき研究課題としている。 研究3年目である平成30年度は、まず、これまで続けてきたInvestors’India Yearbookの統計資料の整理を、イギリス・インドへの1か月半に及ぶ出張を通じ閲覧・収集した統計資料を基礎に、完成させた。これまでの作業を踏まえ、財閥傘下の企業(と財閥外の企業)の資本額・利益率などの統計に基づいた比較研究が可能になるもの。加えて、長くインドを代表するビジネスグループであるビルラ財閥の研究を行っているシンガポール国立大学のMedha Kudaisya准教授、自身も財閥出身者でありインド財閥史に関する多数の著書を有するオックスフォード大学のGita Piramal博士、ならびに18世紀の特に焦点を当てつつタタ財閥の研究を行う在野の研究者Raj Wadia氏の協力を得ながら、インド主要財閥傘下の企業運営の有様に関し、考察を深めた。また、平成30年度は、植民地期インドの財閥の動向に強い影響を与えた、同時期の各種経済政策、要素賦存、経済制度や企業組織の動向分析も行った。 なお、研究代表者は平成29年8月から平成30年7月まで、JSPSの国際共同研究加速基金事業にてシンガポールに長期出張を行った。基盤研究(C)に基づく当該事業は、国際共同研究加速基金事業から帰国した平成30年8月以降、本格化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究3年目である平成30年度の具体的な進捗の有様は、上述の研究実績の概要の対応した、つぎの3種の研究成果に端的に表れている。 まず、9月に京都大学で開催された日本経営史学会において、Medha Kudaisya准教授(シンガポール国立大学)、Gita Piramal博士(オックスフォード大学)、Raj Wadia氏(在野研究者)とともにパネル報告を行った。パネルの目的は、主に日本で活躍する経営史研究者にインド経営史の現状を紹介するとともに、インド経営史が抱える問題を協議することであった。研究代表者は、パネル主宰に加え、自身もGrowth of Modern Business Enterprises in Colonial India and Its Backgroundsという報告を行った。パネルを通じ、インド経営史には多くの蓄積がある一方、研究手法が歴史学の手法に大きく偏っていることが共通認識とされた。また、研究代表者の報告は、経済理論を援用する点で極めて貴重かつ有用であり、今後のインド財閥史・経営史研究において、同様の手法が多用されるべきだ、との見解を得た。こうした見解を得たことは、研究代表者の研究が、世界のインド財閥史・経営史研究に、貴重な貢献を行っていることを端的に示している。 加えて、平成30年度は、植民地インド経済において、各種経済政策、要素賦存、経済制度などが近代的製造業の発展に果たした役割を考察した論考を、2019年2月にSpringer社から刊行された本の1章として発表した。 このほか、植民地期インドのビジネスグループと経済制度との関係に関する研究報告1回、植民地期インドにおける株式会社制度に関する報告に対するコメント報告1回も行った。 最後に、Investors’India Yearbookの統計資料整理に基づく具体的な分析も、順調に行っている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の令和元年は、まず、平成 30 年度までに整理したInvestors’India Yearbookの統計資料を基に、財閥系企業と非財閥系企業の企業運営のありようを、払込資本額、資産額、利益額、雇用労働者数などの統計データを用い整理し、その研究成果をワーキングペーパーなどで発表する。その際、必要であればインドやイギリスに赴きさらに史料を閲覧・収集する。 さらに令和元年は、8月末にインド・アフメダバッドでインド経営史会議が開催予定であるが、研究代表者は、当該会議で基調講演を行うシンガポール国立大学のMedha Kudaisya准教授とともに出席し、当該研究における研究成果の一部を報告予定である。なお、当該会議の主催者の一人に、昨年度研究代表者やMedha Kudaisya准教授とともに日本経営史学会京都大会で報告したGita Piramal氏が名を連ねており、昨年度から続く研究代表者とインド経営史家との共同研究が、研究代表者のインド経営史会議出席により、さらに拡大・発展されることが期待される。 加えて、研究代表者は現在、主に19世紀以降のアジア経済史の学部・大学院生向けテキストを執筆中であり、このテキストの中にも、本研究で明らかになった植民地期インドのビジネスグループ(財閥)の動向に関する研究成果の一端が、反映されることになる。植民地期以降、 経営代理会社からビジネスグループと名前を変えながらも一貫して現代に至るまでインド経済の重要な経済主体であるインドの「財閥」史を、アジア経済史の一側面として日本語で言及するテキストを執筆することは、昨今インドとの交流が急増している日本のビジネスマン、インドの経済に関心がある日本人学生、および一般読者のインド経済への理解を深めることに大きく貢献するものと思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者は、平成29年8月から平成30年7月まで、JSPS国際共同研究加速基金事業により一年間の予定でシンガポール国立大学に長期出張していた。この間の研究予算は、JSPS国際共同研究加速基金事業により賄われており、この間本基盤研究C予算からの支出が極めて限られることとなった。平成30年8月から、本基盤研究C事業遂行のため、長期でイギリス・インドに渡航し、以後順調に経費の執行が行われている。令和元年もイギリスを中心に長期出張が計画されており、研究資金は順調に使用される予定である。
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