研究課題/領域番号 |
16K03788
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研究機関 | 下関市立大学 |
研究代表者 |
櫻木 晋一 下関市立大学, 経済学部, 教授 (00259681)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 貨幣考古学 / 出土銭貨 / 古銭学 / データベース / 画像認識 |
研究実績の概要 |
昨年度と同様、これまでの出土銭貨研究で弱点と思われる領域についての補強と、今後の研究進展のために必要と考えられる分野について研究を進めた。まず、いくつかの出土資料を実見するため、出土銭が所蔵されている機関へ赴き調査を行った。一括出土銭としては、静岡県浜松市譲栄Ⅲ遺跡と中尾遺跡、周智郡森町の大門古銭を実見し、北海道上ノ国遺跡と松前町の出土銭についても調査した。また、2016年の熊本地震で被災した民家の蔵から発見された約16,000枚の古銭を調査した。長崎市出島出土の銭貨33枚については、調査結果を報告書に載せた。 昨年度に借用した北九州市新馬場跡出土常平通寳58点以外の2点について、蛍光X線分析を行った。今年度初めての試みとしては、残留地磁気の研究が銭貨に応用できるかどうかについて共同研究を開始した。 海外の博物館が所蔵している資料調査では、ケンブリッジ大学フィッツウイリアム博物館所蔵朝鮮貨幣について、全点(3,175枚)の実見を終了し、デンマーク国立博物館が所蔵している日本貨幣コレクションについての調査を開始した。また、ベトナムのハティン博物館に出向き、日本の長崎貿易銭や寛永通寳を含むカム・ドゥエ出土銭3,631枚の調査を現地の研究者らと共同で実施した。 今年度は、研究分担者となっている他の科研プロジェクトで、ケンブリッジ大学やオックスフォード大学などの外国人研究者を招聘して、二つの国際シンポジウムを開催した際にコーディネートをした。また、コンピューターを活用した古銭鑑定法の研究は、昨年度からディープラーニングによる画像認識が可能であるかどうかの研究を続けており、今年度は実際に遺跡から出土した寛永通寳を使用して実験を行い、その成果を学会で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
時間的な制約もあり、宿泊を伴う調査旅行の時間を十分に確保できず、国内で実見したいと考えている資料のすべてにはあたれていない。しかしながら、海外調査では、オックスフォード大学所蔵日本貨幣については本研究成果がオンライン上で公開され、デンマーク国立博物館所蔵日本貨幣の調査に着手したことの意義は大きい。デンマーク人のクレブスとブラムセンが明治初期に持ち出した日本貨幣の調査はこれまで行われたことがなく、これらの全貌を明らかにすることは日本貨幣史研究に対しても寄与できるものであると考えている。また、10年ぶりにベトナムで調査を実施できたことは予想以上の展開である。過去にわれわれはハノイで一括出土銭調査を実施し、その成果を報告書として刊行したが、今回はハティンというハノイの南方330㎞に位置する港町で出土した銭貨の調査であり、日越関係における新事実を示すことができる可能性があり重要である。 また、ディープラーニングを使用した銭貨の画像認識については、実際に出土した寛永通寳の拓本を試料とした実験を行い、判別能力の精度がかなり上がってきており、実用化の方向に向かってる。銅銭にわずかながら残る残留地磁気を測定することで、鋳造時期と場所が明らかにできるかもしれないという新たな試みに着手できたことも予想以上の展開である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度が本研究の最終年度のため、当初の目的を達成するために具体的ないくつかの目標設定をする。 まずひとつは、海外における博物館が所蔵している日本貨幣の調査にエネルギーを注ぎ、デンマーク国立博物館、ハティン博物館での現地調査は完了させなければならない。重要な国内の出土銭についても、可能な限り実見に赴く。次に、銭貨のディープラーニングを使用した画像認識については、さらに判別の精度を上げるための方法を考える。 成果の公表については、熊本地震で被災した大量の古銭調査、ケンブリッジ大学所蔵朝鮮貨幣のデータベース、新馬場跡出土常平通寳の金属組成分析について、成果を論文化して適当な研究書に投稿する。また、国際学会を含む複数の学会で、これらの研究成果を報告する。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度の繰越額が472,232円あり、今年度末のヨーロッパとベトナムへの海外調査を実施した際、この金額を使い切る予定であったが、ヨーロッパ調査の前半部分であるケンブリッジ大学での朝鮮貨幣調査については、他の科研から150,000円を支出してもらったので、132,240円の支出残が生じた。今年度は本研究課題の最終年度にあたっており、複数の海外調査や国際学会での報告が決定しており、必ず使い切ることができる。
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