研究課題/領域番号 |
16K03789
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研究機関 | 獨協大学 |
研究代表者 |
市原 博 獨協大学, 経済学部, 教授 (30168322)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 技術開発 / 技術者人事管理 / 電機産業史 / 製品開発 / 能力開発 / 電機企業経営史 / 技術者教育 / 教育資格 |
研究実績の概要 |
日立財団(旧小平記念日立教育振興財団)が所蔵する日立製作所重電部門の元技術者に関連する所内文献を閲覧し、戦後の同社重電部門の技術開発の進展に伴う技術者たちの職務行動と情報交流のあり方の変化を分析した。また、人事記録を利用して、同社重電部門の技術者たちのキャリア分析を行い、戦前期と比べて、彼らの技術的専門性が高まったこと、大学卒業者と工業高校卒業者という教育資格により職務の配分と上位管理職への昇進可能性に大きな違いがあることが明らかになった。さらに、同社の元技術系役員の方々のご厚意により、その経験と技術開発組織のあり方を聞き取るインタビュー調査を複数の方に実施し、貴重な情報を入手した。 これらの調査で得た情報を統合して、企業内における職能間情報共有を促進したマネジメントのあり方と、それに規定された技術者たちの職務行動の変化を解明する論文を準備中である。 東芝についても、戦時期から戦後の高度成長期にかけての社内資料を収集し、技術者たちのキャリアデータベースを作成している。データ量が膨大で作成に時間がかかっているが、本年夏には完成する予定である。その他、同社の労働組合資料の調査・収集を進め、同社を対象とする本格的な分析の基礎作業を行った。 以上の他、関連する調査として、従業員の教育資格と企業の人事管理との関連の歴史的変化を考察するための文献調査を行った。戦前期に教育資格による従業員間の格差が大きく、戦後直後の労働改革によりその格差が縮小したとの通念と異なり、その格差が戦後にこそ拡大したと考えられていたことが明らかになった。これは、企業内の技術者たちの情報共有のあり方にも大きな影響を与える事実である。この論文は本年中に公開する計画になっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では、初年度の2016年度に日立製作所の事例研究を進め、併せて、2017年度から本格的に行う予定の東芝の事例研究の準備をすることにしていた。この計画を基準に判断すると、ほぼ当初の予定通りに調査研究を進めることができたと考える。 日立製作所の事例研究では、①戦後の日立工場および水戸工場の技術系職員の人事データベースの作成を終え、その分析を進めていること、②日立製作所の重電部門の元役員の方々のご協力を得て、インタビュー調査を行ったこと、③日立財団所蔵の社内文献の調査をほぼ終えたことから、その完成を見通せる状況に至っている。エンジニアたちの職務行動を理解する前提となる技術的知識の獲得や、設計・製造職場で実務に従事していた工業高校卒業の技術者の方々へのインタビュー調査の実現になお課題が残っている。 東芝の事例研究の準備については、労働組合資料の収集を進める一方で、同社の戦時期から高度経済成長期にかけての人事記録と経営組織の変遷に関する記録を入手し、それを利用して、技術系職員の人事異動データベースの作成を行っている。研究計画のスケジュール通りに、2017年夏ころの完成を見込んでいる。同じく研究計画に盛り込んだ同社エンジニアへのインタビュー調査は、未だ実現していないが、元役員の方にアプローチするルートを拓くことは出来ている。2017年度にこれを実現できれば、東芝の事例調査も計画通りに進行させることができると思う。
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今後の研究の推進方策 |
日立製作所の事例研究については、作成した人事データベースの分析を早急に完了させ、日立財団所蔵の社内文献やインタビュー調査から得た情報と組み合わせて、論文としての完成を目指す。その際、電気学会技術史技術委員会の元電機会社OB方々にご指導をお願いし、なお課題として残されている具体的で正確な電気技術知識を獲得して、技術開発と技術者の職務行動に関する文献の記述を正確に読み解くようにする。また、2016年度には実現できなかった実務を担当された工業高校卒業の技術者OBの方々へのインタビュー調査を試みて、社内の大学卒・工業高校卒の技術者の関係性とそれぞれの職務行動の特質を洗い出し、複眼的に研究課題を解明できるようにする。 東芝については、①人事データベースを完成させ、技術系職員の職能経験と昇進との関係を解明し、②労働組合資料の収集をさらに進め、学歴(教育資格)階層別の技術者の昇進と処遇の格差を特定し、③両者の分析を統合して、教育資格と職能、昇進、処遇のそれぞれが如何なる関係性を持っていたのかを分析し、それが企業内の技術者間での情報共有化とどのような関連をもっていたのかを検討する。その上で、同社の技術者OBにインタビュー調査を行い、分析結果に対するコメントを得て分析・検討の正確性を担保するとともに、職場での技術者たちの職務行動の実態、及び、教育資格と職位昇進の格差との関係に関する情報を獲得する。
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次年度使用額が生じた理由 |
東芝の人事記録データベースを作成するために、入札を実施したうえで、データ入力業務を業者に委託したが、データ量が膨大なため、作業が年度内に終了しなかった。そのため、業務委託料金の支払いを次年度に繰り越すことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
業者との契約で、次年度早々に作業が終了して納品され、業務委託料を支払うことになっている。
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