本研究の課題は、戦時体制期から戦後復興期にかけての日本の民営鉄道(私鉄)について、新資料の発掘・利用をともなった実証的考察を行い、これまで国有鉄道(国鉄)中心の概説にとどまりがちであったこの時期の鉄道史に、新たな視点を提起することにある。当該期における民営鉄道事業者の行動と論理を丹念に読み解き、より幅広い視野から日本における鉄道業の戦時と戦後をつなぐダイナミズムを明らかにすることを目的としている。 令和3年度は、本来であれば前年度に完了するはずの研究計画が、新型コロナウイルス(COVID-19)の国内外における感染拡大による所蔵機関の休館あるいは利用制限という影響を被ることになったため、未執行分の課題に取り組むという限定的な計画となった。周知の通り、新型コロナウイルスの影響は引き続いて残り、状況は大幅に改善されたとはいえなかったが、そのようななかでも可能な限りの史料収集を務めることができた。 一例として、旧青梅電気鉄道(現JR青梅線)における日中戦争期からアジア太平洋戦争期にかけての軍需関連輸送をある程度把握できるデータへのアクセスが叶ったことを挙げておきたい。この時期の軍需増加については、戦時体制下で貨物輸送収入あるいは輸送量が急増することをもって間接的に推し量るほかなかったが、このたび得られた荷主別のデータにより、軍関係が具体的にどの程度の割合を占めていたのかという問題に接近することが可能となるように思われる。
|