研究課題/領域番号 |
16K03791
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鈴木 俊夫 東北大学, 経済学研究科, 名誉教授 (00139982)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 投資銀行 / ニューヨーク金融市場 / 証券発行 / J.P.モルガン商会 / クーン・ローブ商会 / リーマン・ブラザーズ商会 / ソロモン・ブラザーズ商会 |
研究実績の概要 |
今回の主要な研究対象となるリーマン・ブラザーズ社の経営活動を全般的に分析した。リーマン家は,米国からのユダヤ系移民の典型的な成功事例となる。バイエルン生まれのヘンリーは,アラバマ州モンゴメリーに移住すると,エマニュエルとマイヤー兄弟を呼び寄せた。小売業で口銭を稼いだ後に,綿花の販売業に転じた。客が綿花で代金を支払うことを認めたり綿花取引所の開設を援助したりして,革新的な経営に努めた。その後鉄道金融に着目し,1887年にはニューヨーク証券取引所の正会員となり,同99年に最初の社債を発行した。 その後,経営の実権がエマニュエルの息子フィリップやロバートのようなオーナー経営者の手に移ったが,1929恐慌後は同族による経営形態を離脱した。すなわち,専門的経営者となるJ.M.ハンコック,M.C.ガットマン,P.メイザー,P.ピーターソンなどの手に会社経営が委ねられた。彼らは,当時経営不振に陥っていたウォール街の有力有力投資銀行クーン・ローブ商会を吸収・合併し,倒産の危機から救った。利益の分配をめぐり投資銀行部門とトレーディング部門間に対立が生じると,経営の実権を握ったトレーディング部門出身のL.グラックスマンが過度の対立を未然に防いだ。さらに,アメリカン・エクスプレスの経営への介入が懸念されたが,その後の再上場や証券化事業が功を奏して危機を乗り切った。こうして,1994年からリチャード・ファルドが経営の主導権を掌握したが,過度の借入(レバレッジ)に依存する経営体質が大いに懸念された。事実,不動産投資や証券化業務に重点を移したことに起因する経営戦略の失敗から,リーマン・ブラザーズは2008年9月に破綻の危機に瀕した。さらに,「民間は自力で解決すべき」とハンク・ポールソン財務長官が救済を拒否したため破産のやむなきに至った。研究は,その経緯を実証的に明らかにしたものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
心房細動の慢性化のため,長時間の航空機による移動が制約されて,米国での資料調査が当初の予定通りには実施できなかったが,2013年2~3月にハーヴァード・ビジネス・スクール・ベーカー図書館を実際に訪問して所蔵資料を閲覧した。遅延しながらも,成功裏に海外調査のリサーチを実施し,資料調査と,その収集分析作業は順調に進行している。館員の献協力もあり,研究に必要なリーマン・ブラザーズ社やクーン・ローブ社の関係資料をデジタル・カメラで撮影することができた。また,被合併会であるクーン・ローブ商会のJ.シフ文書については,調査の結果American Jewish Archivesに所蔵されていることを確認して,同アーカイヴズに複写依頼を行ったが,新型コロナ・ウイルス流行のため,現在は進行が中断している。
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今後の研究の推進方策 |
上述の理由から当初の研究計画の再検討が必要となったが,ベーカー図書館のアーキヴィストと連絡を取り進行計画を見直した。以上を踏まえたうえで,令和2年度末までに研究課題をを完了することは可能と判断している。
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次年度使用額が生じた理由 |
心房細動の慢性化のため,長時間の航空機による移動が制約されて,米国での資料調査が当初の予定通り実施できなかったため。
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