研究課題/領域番号 |
16K03791
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鈴木 俊夫 東北大学, 経済学研究科, 名誉教授 (00139982)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 投資銀行 / J.P.モルガン商会 / モルガン・スタンレィ商会 / リーマン・ブラザーズ商会 / クーン・ローブ商会 / ニューヨーク金融市場 / 証券発行 / アンダーライティング |
研究実績の概要 |
本科研費の研究課題である,米国の投資銀行リーマン・ブラザーズ社Lehman Brothersの経営活動全般の歴史を,米国の投資銀行発達史の観点から総合的に的に分析した。リーマン家はドイツ南部バイエルンの出自であり,米国におけるユダヤ系移民の成功者の草分けに数えられる。米国の投資銀行の通史を研究したカロッソやアイケングリーン等による特定の投資銀行への部分的な言及は存在するものの,リーマン・ブラザーズ社の経営活動の全般を手稿のレベルまで遡って分析した詳細な研究は存在しないのが米国投資銀行史の現状である。リーマン・ブラザーズ社の事業手法を説明すると,小売業における商取引で口銭を稼ぎ,その資金をもとにして綿花の販売に従事したり,客が綿花で代金を支払うことを認めたたりした。綿花取引所を開設するのを積極的に援助したりして,顧客が革新的な経営手法を取り入れるのを積極的に支援した。その後リーマン・ブラザーズ社は綿花の取引から金融業に転じ,1887年にはニューヨーク証券取引所の正会員となり,99年には最初の社債をニューヨーク証券市場で発行した。また1929の「大恐慌」後には同族経営を離脱し,経営のを外部の専門的経営者の手に委ねるに至った。さらに経営不振に陥っていたウォール街の有力投資銀行であった老舗のクーン・ローブ商会を合併し,倒産の危機から救った。その後も,利益の分配をめぐり銀行内部でのトレーディング部門と投資銀行部門間の熾烈な対立を引き起こしたりして内部のは絶えることがなかったが,再上場や証券化事業の手法を導入しして危機を脱した。過度の借入に依存する営業体質が懸念されたが,不動産事業や証券化業務に事業に活路を見出し一旦は業績を回復させたものの,2000年代初頭にサブプライム・ローン危機に陥り,2008年9月に経営全般が破綻して連邦破産法の申請に至り,その命脈は尽きた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
英国や米国海などにおける海外調査を成功裏に実施して,本研究に必要な資料の収集と分析は順調に進んでいる。心房細動の発症による長時間の航空機による移動の制約や近時のCovid-17(コロナ)によるアーカイブズ利用の制限(開館日や開館時間の制限)などがあったものの,2020年2~3月にハーヴァード・ビジネス・スクール・ベーカー図書館を訪問して同所に保管・所蔵されているリーマン・ブラザーズ社の手稿を長期にわたり閲覧して収集することができた。また,コロナ下における館員の献身的な協力を得て,研究に必要なリーマン・ブラザーズ社やクーン・ローブ商会の関係する資料をデジタル・カメラに撮影できたのは,大きな成果であった。上記図書館のSpecial Collectionとして所蔵されているLehman Brothers Records 1868-2007(2008の金融危機を発生させた投資銀行リーマン・ブラザーズ社と被合併会社クーン・ローブ社の経営文書-整理時点で720 箱)の内容を分類リストから確認して,創業から始まる同社の経営者(パートナー)の変遷,1970~2008年に至る同社の投資銀行としての事業内容とその戦略の変遷,日本との事業取引関係などに関する資料を逐一抜き出してデジタルカメラで撮影した。社史を除くと,これまで投資銀行の経営を示す詳細な資料が公開されることがなかったため,これは研究上極めて有益な資料となる。
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今後の研究の推進方策 |
充分なアクセスと利用が危惧されていた被合併会であるクーン・ローブ商会のJ.シフ文書については,オハイオ州シンシナチ市に所在するアメリカン・ジュウイッシュ・アーカイヴスAmerican Jewish Archivesに保存されていることを確認し,同資料を精査のうえで必要箇所を確認して,同アーカイヴズに複写依頼を行った。さらに収集した資料については,現在判読作業および分析を進めており,研究期間内に作業が完了できる見通しである。コロナの萬延などの諸事情から当初の研究計画に若干の遅れが生じているが,ベーカー図書館やアメリカン・ジュイッシュ・アーカイヴスのアーキヴィストと連絡を密にして調整して作業を進めている。令和3年度末(2021年度末)までの所定の研究期間内に研究を完了することは十分に可能となる見通しである。順調にに海外調査のリサーチを実施し,資料調査および,その収集と分析作業は順調に進行しているのが現状であると言える。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの萬延で,予定した海外調査が実施できなかった。
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