研究課題/領域番号 |
16K03804
|
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
大石 直樹 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (00451732)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 財閥 / 意思決定プロセス / グループ経営 / equality / 合弁事業 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、グループ経営の本社である持株会社が果たすガバナンスおよび統括機能について解明するため、戦前の「財閥」を研究対象として、ファクトファインドとそれらに基づく理論化を試みることである。特に、グループ内での意思決定プロセスや本社と傘下企業間の権限関係に注目することにより、多角的な事業展開を行う経営主体の組織内での経営資源の配分のあり方についても明らかにすることを目指す。 研究期間2年目の2017年度は、内外の資料所蔵機関(アメリカ国立公文書館、三菱史料館、東京大学経済学部図書館、大阪市立大学学術情報総合センター)での資料調査を行った。 上記調査による研究成果としては、「戦前期三菱石油における為替差損補填問題と増資交渉―合弁事業のprinciple of equalityをめぐって-」(『三菱史料館論集』第19号、2018年3月)を公刊した。これは、三菱財閥がアメリカの石油企業と設立した合弁事業である三菱石油で生じたアメリカ側の出資金の補償および増資をめぐる交渉の過程を検討したものである。交渉は三菱石油が担当したが、その過程でアメリカ側との対立が先鋭化し、双方の溝が埋まらず、交渉は暗礁に乗り上げた。そこで三菱石油は対応可能な3つの選択肢を妥協案として準備し、どの案をアメリカ側に最終案として提示するのかについて意思決定を行う同社の株主3社(三菱合資会社(財閥本社)、三菱鉱業、三菱商事)から構成される協議会に諮る直前に、三菱財閥のトップである岩崎小彌太に対して報告した。その際、岩崎は今後の日米合弁事業の推進のためには、個別案で駆け引きするのではなく3案同時実施が望ましいとの見解を示した。岩崎への報告後に開催された協議会では、当初案ではなく岩崎案を前提とする方向性で最終案が確定し、実際に実行された。これによって、三菱財閥の傘下企業における意思決定プロセスの一端を解明し得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
内外の資料所蔵機関(アメリカ国立公文書館、三菱史料館、東京大学経済学部図書館、大阪市立大学総合情報センター)における資料調査を予定通りに実施できたことで、研究遂行に必要となる一次資料の収集作業も順調に進んでいる。グループ傘下企業の意思決定に関する資料収集、とりわけ本研究テーマに直結する本社マネジメント層と傘下企業の利害対立及び当該案件に関わる意思決定をめぐるやり取りに関する新資料をいくつも発見するなど、想定以上の成果も出ており、それら新資料を用いた分析結果も研究初年度に引き続き論文として発表した。 また、グループ本社および傘下企業の意思決定の仕組みの解明だけでなく、本社によるグループ経営を統括するためのガバナンスの機能と役割について明らかにするためには、経営成果に関する計数をふまえた分析も不可欠である。そのため、本社と傘下企業全般に関する経営実態の基礎データの収集と入力作業についても並行して進めている。今後とも、本作業を計画的かつ継続的に進めることで、できる限り早い段階でデータセットの完成を急ぎ、質的側面と量的側面の双方から、本研究課題にアプローチしていく予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後もアメリカ国立公文書館や国内の各種所蔵機関での資料調査を行い、本研究の基礎となる新資料の積極的な収集を進めていく。今年度のアメリカでの調査は、夏季休暇などを使って、一定程度の調査期間を確保することで集中的かつ効率的に実施する予定である。国内での調査は、引き続き断続的に推進していく。 経営データなどのデータベースの構築については、各種資料の収集はほぼ完了しているため、適宜入力補助者などの協力も仰ぎながら、迅速に進めていく。 分析結果については、研究会での報告、投稿論文の執筆のほか、ディスカッションペーパーなどでの迅速な公開を行っていきたい。また本研究の中間報告として、これまでの成果については学会報告を行い、期間内の研究完成に向けて計画的な研究遂行に努める。 今年度の研究課題は、グループ本社の統括機能の解明の一環として、傘下企業間で利害が対立した場合における利害調整の実態と本社の役割について明らかにすることである。戦前の財閥は、極めて多角的な事業を進めていたことから、グループ内での利害対立も起こりえた。また新規事業の開始やグループ内の企業再編なども行われていたため、利害調整は本社の重要な役割であった。そこで、いかなる手段と方法によって、グループ内での利害調整を行っていたのかを、具体的な事例をもとに分析することとする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
海外での資料調査の旅費が、当初の予定を超過することが予想されたため、物品費の購入を控えたこと、データ入力を研究代表者本人が実施し、入力補助者に依存しなかったことによる。
|