研究課題/領域番号 |
16K03805
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
Heller Daniel 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (00362096)
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研究分担者 |
本橋 永至 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 准教授 (50707239)
佐藤 秀典 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 准教授 (70588293)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ものづくり / 販売活動 / 営業 / 従業委員満足 / 顧客満足 |
研究実績の概要 |
本年度は、大型定量調査で使われる理論的モデルづくりと変数の操作化作業を大きく進展することができた。とくに、ものづくり経営の下流工程に当たる販売現場の組織能力を「営業力」と呼び、この新しい学術概念を測定するための最終準備を終えた(木田, 2020, 2019とManabe & Heller, 2020参照)。なお、その測定方法の適応性については自動車のような通販等に馴染まない高価な耐久消費財を売る販売現場に限ることをここで留意しておく。営業力を測定できるようになったことで、販売店舗の販売成果をもたらす要因を営業力と商品力に大別している本研究では、それぞれの影響力を測定するアンケートの実施できるようになった。 本研究では販売を次のようにとらえている。販売店舗内の従業員は、顧客との関係を構築し、組織的な仕組み等に影響を受けながら商品やサービスを提供するための販売活動を行う。現場の販売活動のインプット(人・時)とアウトプット(販売成果の量や質)によって販売の生産性が決まり、また従業員満足と顧客満足が生まれる。2つの満足の間に存在する関係性を説明するHesket他のSPC理論的モデルでは、従業員満足と顧客満足は一致する。しかし、従業員満足と顧客満足が一致しない状態も存在することは、研究蓄積で発見できた。本研究は、自動車ディーラーの定性研究を通して、満足の不一致の発生メカニズムとその解消方法を明らかにした。 販売成果、従業員満足と顧客満足を規定する営業力を、3つのパーツで形成されている概念として捉える:①もの(車)の販売に影響する要因と、②サービスの販売に影響する要因と、③ものとサービス両方の販売に影響を与える販売店舗全体や本部HRMの要因。これらの要因の構成様子は、コミュニケーションの取り方、標準化の度合い、市場や顧客に対する志向、協働の仕方やリーダーシップの在り方等である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
木田世界(2020)に集約された本研究のモデルづくりと変数の操作化作業に関わった主要な定性調査は、2016年~2019年にかけてX社店舗・本部・労組とY社店舗・本部にて、合計36人、約39時間、49回のヒアリングを行った。また、木田(2019)では、アフターサービスが収益の源泉へとシフトする際の店舗経営上の課題について理論的な検討を行い、この内容をモデルづくりに反映することができた。その他に、自動車販売店舗や自動車販売会社、営業組織、フランチャイズ経営に関する文献収集と読み込みによって詳細な測定尺度の考案やモデルの精緻化を行った。さらには、研究分担者らとの打ち合せやメール等による意見交換を行い研究のデザインや意味、本研究の潜在的な理論的貢献について議論を深めた。 本年度の研究実績に基づいてアンケート調査を行う準備を進めていた。新年度に入って早々にアンケートを実施する予定であった。しかし、年末にコロナ禍の影響が響き始め、アンケート調査の最終準備(業界団体への接触など)を見送る状況になってしまった。
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今後の研究の推進方策 |
もともとは別々で実施する予定だった、都市ディーラーへのアンケートと地方ディーラーへのアンケートを同じタイミングで大規模のアンケートとして実施することにしている。都市と地方のデータを同時に収集するメリットは、同じ時点のデータは比較がしやすく販売店舗が抱える課題の地域性をより深く検討できることである。 都市と地方の両方を含む首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)の乗用車販売店舗(国産8メーカーの正規店舗、約3000店と推定)を対象とする。各店舗の店長宛に質問紙を送付し、店長自身に回答を依頼する。また、業界団体などに働きかけて本研究の意義に協賛を得て、回答率を極力高める。送付先の20%弱にあたる500店舗以上の回答を見込んでいる。収集したデータを用いて定量分析を行い、必要に応じて業界関係者にインタビューを行う。 なお、アンケート調査を実施できる状況に回復するまでは、モデルなどの精査を行う。また、営業力の研究は、ホワイトカラーの労働生産性に深い関係があるため、次の視点を本研究の重要な参考点にする。日本は一般的にホワイトカラーの労働生産が低いとされているが、Manabe & Heller (2020)にまとめてあるように、ホワイトカラーの労働生産の向上に2000年代半ばより広く深く取り組んでいるトヨタ自動車の「自工程完結」の取り組みがある。この取り組みでは、ブルーカラーの従業員が生産現場で行う「自働化」や「作り込み品質」の活動を支える考え方を、どのようにすればホワイトカラーの従業員が勤める職場に適応できるかの検討や応用を行われている。本研究で自動車ディーラーに対して行うアンケート調査に、販売現場を超えたホワイトカラー全般の生産性向上の研究成果を反映する。 アンケート実施が困難な状況が長引く場合は、定量データを待たずに今までの定性研究の成果を用いて英文の論文の執筆を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、第1~3年度の研究成果をまとめるための執筆作業に集中したため経費を節約して済むことができた。次年度は当初より規模が大きなアンケート調査を行う予定があるため、本年度の経費の全額を次年度に繰り越す必要があったと判断した。次年度に繰り越した経費のほぼ全額をアンケート調査の実施にかかる費用(印刷代や送料等)に当てる。
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