本研究の目的は、不確実性下における企業の投資・財務活動に関する意思決定と、それらの意思決定が企業の株式や負債の価値に及ぼす影響を理論的に分析することである。特に本研究では、リアルオプション理論に関する既存研究では十分に考慮されていないが、現代企業の投資・財務戦略に関する意思決定の分析において考慮されるべき要素である競合企業の行動に対する戦略的考慮が企業投資・財務戦略の意思決定に及ぼす影響を理論的に考察する。また、それらの要素が不確実性下における投資の実施タイミングや株式と負債の資本構成に関する意思決定に及ぼす影響を考察するとともに、それらの意思決定が株式と負債の価値に及ぼす影響を明らかにする。 今年度は、新製品の製造・販売を計画する先駆企業の事業投資に関する意思決定と株式と社債発行による資金調達に潜在的競争企業による市場参入の脅威が及ぼす影響について研究を引き続き行った。本研究では、社債発行が将来起こりうる市場競争における先駆企業の立場を弱めることを通じて潜在的競争企業による早期の市場参入を促す結果、先駆企業の社債発行による資金調達を抑制するこ、さらに先駆企業による社債の利払いがある金額を上回るとき、潜在的競争企業に市場環境が後退していく事業環境において先駆企業を市場から締め出して市場を独占する誘因が生まれるため、先駆企業の社債発行による資金調達がさらに抑制される結果を得た。また、企業の価値を最大にする事業投資と資金調達の意思決定と比較すると、社債発行から生じる株主と債権者の利害対立を考慮した事業投資と資金調達の意思決定において、社債発行による資金調達が投資の意思決定を前倒しするために生じるエージェンシーコストが潜在的競争企業による市場参入の脅威によって削減される結果が導かれた。得られた研究成果を論文にまとめて、学術誌に投稿し、査読者のコメントをもとに改訂中である。
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