本研究は,コーペティションすなわち競合関係にある企業による協力行動に関して,① ライバル企業間におけるつながり形成条件の解明,及び,② ライバル企業への知識提供行動促進要因の解明を目指すものである。このため,日本の航空会社が,NDB(navigation data base: 航法用データベース)の独占的サプライヤー(Z社)に対して取っているコーペティション行動を主な題材として検討を進めてきた。特に,航空会社がZ社に対する共同要望を提出するために意見調整を行う場である「NDB会議」の活動の内容を分析してきた。 今年度は,昨年度までの研究(NDB会議参与観察及び関係者インタビュー)結果に基づいて論文を執筆した。その際,2つの異なる視点から分析を行った。第1の視点は,NDB会議を実践コミュニティとみなし,その成立条件とその中での協力行動(知識提供等)促進条件の抽出である。特徴的であったのは,各社共通の外的脅威が協力体制項形成を促し,次いで,「安全」という共通価値や「助けられた経験」が,競争と協力の間のコンフリクトを緩和し,協力行動を促進するという点であった。また,技術標準化が,これらメカニズムのモデレーターとなり,協力行動を促していた。 第2の視点は,コーペティション形成に対して,制度的要因(独占的サプライヤー,規制当局等)がいかに影響するか,並びに,コーペティション関係にある組織がいかに協調してそれら「制度」に対峙するかという視点である。その中で特に,コーペティションを通じてバーゲニングパワーを強化するメカニズム(合意形成を通じた説得力向上と数の論理)を明らかにした。 これらの研究成果を取りまとめ,執筆した論文を学術誌に投稿し,査読者コメントに対する回答を作成するとともに,適宜原稿を改訂した。
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