研究課題/領域番号 |
16K03816
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研究機関 | 東京情報大学 |
研究代表者 |
茂籠 幸代 (池田幸代) 東京情報大学, 総合情報学部, 准教授 (40344460)
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研究分担者 |
中尾 宏 東京情報大学, 総合情報学部, 准教授 (40327218)
小早川 睦貴 東京情報大学, 総合情報学部, 助教 (80445600)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 介護事業所 / 経営組織 / 組織アイデンティティ / 高齢心理学 / ICT / 介護ロボット |
研究実績の概要 |
本研究は、介護現場での人手不足と従業員間の情報共有のあり方を改善することを通じて、介護事業所の経営課題を克服しようとするものである。 ①介護現場の問題点と目標となる組織運営のあり方の把握については、介護事業所におけるインタビューや参与観察によって、進めることができた。サービス提供時の利用者の様子と介護スタッフの様子を調査した結果、一日のサービス提供のスケジュールの中で、業務が煩雑で手間がかかる時間帯や作業があることが分かった。また、介護スタッフの勤務形態の違いが、時間と場の共有を難しくしており、個人のアイデンティティの差異を生み出している。このことによっても、介護スタッフ間の部門横断的で有機的な情報共有が進みにくいことがわかった。これにより、「介護ロボットの導入」と「情報共有の仕組みの導入」の重要性が確認できた。現在はこれらについてのICTを活用した仕組みのあり方を検討している。 ②組織への介入前後の変化を評価する仕組みについても検討した。その結果、利用者の心理的・行動上の変化については、認知症である利用者も考慮しつつ、身体に現れる変化による測定手法の絞り込みを行った。また、介護スタッフに与える影響については、インタビューを実施することが良いと判断した。 ③情報共有のためのシステム構築については、介護事務・利用者情報に対応するパッケージソフトを導入していることが判明した。そこで介護スタッフの人間関係に特化し、低コストに情報を有機的に共有できるSNSの仕組みを提案することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①介護現場の問題点と目標となる組織運営のあり方の把握については、介護職員へのインタビューや、介護現場での参与観察を実施した(池田・小早川・中尾・井関)。介護現場の問題点としては、業務が煩雑で手間がかかる時間帯として、特に利用者の帰宅・送迎時に注目することにした。また、介護スタッフ間の情報共有のあり方について、情報共有ノートやツールについて、インタビューを行った。現在の職場での情報共有は、対面・口頭での伝達、ノート、携帯電話、個人間で独自に行うメール、によって行われていた。職務遂行のためだけでなく、人間関係を改善する上でも、組織横断的にスタッフがつながり、情報共有できるツールが必要であることが分かった。介護ロボット(Pepper)については、ソフトバンク社およびシステム会社への調査から、その機能と活用の可能性を検討した。現在はPepperを介して認知症の利用者が、相互にコミュニケーションをとることを可能にし、認知機能と感情機能に影響を与えることを想定したアプリケーションの検討をすすめている。 ②組織への介入前後の変化を評価する仕組みについても検討した。介護事業所での調査(小早川)を行ったところ、すでに多くの利用者において、認知症の進行が認められたことが分かっている。利用者の心理的・行動上の変化については、これまでに想定した検査手法に加えて、唾液・心拍・表情等の変化を測定手法として導入することが、技術的に可能であるかを検討中である。介護スタッフへの調査については、調査時期の調整をすすめている(池田)。 ③情報共有のためのシステム構築については、介護スタッフの人間関係に特化し、低コストに情報を有機的に共有できる仕組みに着目し、すでに学内で運用を行っているmoodleをベースに活用を検討する(中尾・井関)に至った。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、介護事業所内の情報共有システムの試験的な運用を開始する(中尾・井関)。情報共有システムについては、moodleをSNSとして活用する仕組みを試験的に導入し、介護スタッフの意見を取り入れながら、機能およびデザインの更新を図っていく予定である。また、その際にもスタッフに対するインタビュー調査(池田)をすすめる。 同時に、Pepperのアプリ開発(井関)をすすめ、利用者がPepperを通じて相互に交流できる環境づくりをすすめていく。また、Pepperの活用によって、利用者の興味関心がPepperおよび他の利用者に向かい楽しく過ごせることで、利用者の問題行動が軽減され、介護スタッフの業務負荷を軽減することも目指す。加えて、Pepperの活用方法における差別化を進めるために、すでに介護用として導入されている市販のアプリについては、さらなる調査をすすめ、その後、介護事業所へPepperの導入・調査を進める予定である。 効果の測定については、利用者への調査(小早川)とスタッフへの調査(池田)を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品費では、心理学的な観点による利用者への影響の測定のツールとして、認知機能検査用紙、感情検査用紙、抑うつ検査ツール、刺激提示ソフトといったものが必要であると想定されていた。今年度は他の作業に時間が割かれ、検査の実施が思うように進まなかったため、次年度でこの種の検査を実施する予定である。よってこの分の経費が今後必要となる。 旅費・交通費においては、介護事業所における調査の回数が想定を下回った。次年度は、長期にわたる日程での現地調査を実施するため、追加の交通費が必要となる。また、今年度は学会参加のための交通費も、開催地の関係上、支出が当初の予想を下回った。人件費・謝金については、資料の収集にとどまり、整理作業を依頼するまでに至らなかった。今年度は、データの収集とともに、分析も進めるにあたり、その資料の整理と分析にかかる人件費が必要となる。
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次年度使用額の使用計画 |
心理学的な観点による調査のためのツール(認知機能検査用紙、感情検査用紙、抑うつ検査ツール、刺激提示ソフト等)のほか、唾液・心拍・表情等の変化を測定手法として導入するための経費が想定される。加えて、学会大会参加費、人件費(資料整理・データ分析)、介護事業所への交通費、が挙げられる。次年度より、社内情報共有ツールの構築とサーバーの管理、およびPepperのプログラミングの技術的サポートの担当者として、井関文一(東京情報大学総合情報学部教授)の協力をいただく予定である。こうした業務における必要経費として、moodleをベースとしたSNS構築にかかるデザイン購入経費、Pepperの技術に関する資料購入代金、現地調査にかかる旅費・交通費の追加が必要となった。また、大学-介護事業所間におけるPepperの輸送費用も見込まれる。
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