研究課題/領域番号 |
16K03822
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
中嶋 聖雄 早稲田大学, 国際学術院(アジア太平洋研究科), 教授 (70734325)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 中国 / 映画 / 産業 / 経済社会学 / ネットワーク |
研究実績の概要 |
本研究は、中国映画の生産データ――どのスタジオが単独あるいは共同で映画を製作したか――に関するデータベースを作成し、ネットワーク分析の方法によって、スタジオ共同製作のネットワーク構造の変化・不変化を明らかにすることをめざしている。「新古典派経済学」によれば、現代中国におけるような市場移行期の生産ネットワークは、匿名の生産アクターによる一回性の「非繰り返し共同」(non-repeat collaboration)に向かうとされる。他方、経済社会学的アプローチは、市場経済における生産ネットワークも、社会的権力(例えば、国有スタジオに対する政策上の優遇)や過去の取引の惰性的継続のような社会構造に「埋め込まれており」、「繰り返し共同」のかたちをとった市場の「社会的構造化」が出現するものとみる。本研究は、上記二つの仮説の検証を行うことを目的とする。2017年度に、ネットワークデータベースを作成したが、データクリーニングの過程で、2010年以降、統計の集計方法が変わったことが分かり、それ以前と以降でのデータベースの整合性を図る必要があり、まずは、ネットワークデータベースの修正をめざした。ネットワークデータベースの問題があったため、計量分析は少しスローダウンしたが、他方、新たな知見の獲得もあった。スタジオ共同製作が評価される場としての映画祭・映画賞、さらに共同製作のプロジェクトが誕生する場としてのフィルムマーケットの重要性を認識することができ、この知見に基づき、“Official Chinese Film Awards and Film Festivals: History, Configuration, and Transnational Legitimation”と題する英文論文を執筆・投稿し、雑誌Journal of Chinese Cinemasへの掲載が決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、1)中国映画の生産ネットワーク・データベースを作成・分析する量的研究と2)質的インタビューで構成される。1)に関して、2010年以降、統計の集計方法が変わったことが分かり、それ以前と以降でのデータベースの整合性を図る必要があった。2)に関して、メディア統制の強化により、インタビュー対象者選定に遅延があった。上記の理由から、現在までの進捗状況はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
1)計量的ネットワーク分析: 計量的ネットワーク分析の手法を用い、市場経済化にともなう、共同製作のネットワーク構造の変化・不変化を明らかにする。 2)当該期間(1979~2018年)における映画製作やマクロ経済指標との照合: ネットワーク分析から明らかになったネットワーク構造の変化・不変化が、現代中国映画産業、さらには現代中国経済および国際貿易全般の歴史的変化とどのように対応しているか(あるいはしていないか)を明らかにする。具体的には、映画製作に関わる政策上の変化、例えば、2003年から、映画を含む各産業分野において段階的に実施されている「中国本土・香港経済緊密化取り決め」(Mainland and Hong Kong Closer Economic Partnership ;通称CEPA;)や、より広範なマクロ経済指標の変化などを詳細に研究・リストアップし、それら政策上の変化とネットワーク構造の変化との間の対応・非対応を明らかにする。すなわち、質的な産業史的先行研究と、計量的分析との統合をめざす。 3)中国映画産業組織内人員へのインタビュー: 中国映画産業組織内人員へのインタビューを継続し、上記で把握したネットワーク構造の歴史的変化・不変化をスタジオ経営当事者の視点から理解することをめざす。より具体的には、各省に点在する「16社映画製作所体制」のなかからいわゆる「三大映画製作所」と呼ばれる北京映画製作所、上海映画製作所、長春映画製作所(それぞれ在北京・上海・長春)に焦点を絞り、特にスタジオ間共同に関わる意思決定を行う人物(多くの場合は映画製作所長)および関連各部局(主にプロダクション部門)の人々へのインタビューを行い、各スタジオの組織戦略とネットワーク構造との関連を把握する。すでにインタビューは開始しているが、本年度は、分析の完了までをめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、1)中国映画の生産ネットワーク・データベースを作成・分析する量的研究と2)質的インタビューで構成される。1)に関して、2010年以降、統計の集計方法が変わったことが分かり、それ以前と以降でのデータベースの整合性を図る必要があった。2)に関して、メディア統制の強化により、インタビュー対象者選定に遅延があった。上記の理由から、研究遂行に想定以上に時間を要したため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、成果発信のための学会発表旅費、論文執筆のための資料購入に使用の予定である。
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