本研究は、経営学及び経済社会学分野における、「市場経済化にともなう生産ネットワークの社会的構造化」の議論に貢献することを目的とした。「新古典派経済学」によれば、現代中国におけるような市場移行期の生産ネットワークは、匿名の生産アクター(本研究においては映画スタジオ)による一回性の「非繰り返し共同」(non-repeat collaboration)に向かうとされる。他方、経営学・経済社会学的アプローチは、市場経済における生産ネットワークも、社会的権力(例えば、国有スタジオに対する政策上の優遇)や過去の取引の惰性的継続のような社会構造・メカニズムに「埋め込まれており」(embedded)、「繰り返し共同」(repeat collaboration)のかたちをとった市場の「社会的構造化」が出現するものとみる。計量的ネットワーク・データ分析の結果、経済社会学的アプローチが予測するような、「繰り返し共同」のかたちをとった市場の「社会的構造化」――社会的権力(例えば、国有スタジオに対する政策上の優遇)や過去の取引の惰性的継続のような社会構造の存在――を示唆する結果が得られた。さらに、インタビュー、文献研究に基づく質的研究の結果、計量分析で示された「社会的構造化」に、国内の映画祭におけるフィルムマーケットが大きな役割を果たしていることが明らかとなった。加えて、研究開始当初には背景として十分に想定されていなかった、IT企業の映画製作への投資・参画も明らかになり、インターネット動画サイト等で配信される映画・コンテンツ製作をも視野に入れて、中国映画産業研究を進めてゆく必要性が認識された。
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