研究年度の最終年に当たり、以下の検討を追加し研究全体をまとめとした。①本研究でもっとも注目される製造過程における管理プロセスの外観を明確にする。②生産工程の設計から生産実施以降の組織的な情報形成過程でのエンジニアの役割確認。③次期研究の課題となるデジタル管理の進捗状況に関する海外での基礎調査。 以上の論点を整理するため、①日本国内製造業での工場調査、②製造過程における組織的な情報形成について、専門および近接領域の研究者からのヒアリング、③次期研究のための基礎調査として、スウェーデンのスマート工場と日本工場でエンジニア行動に関する比較調査を行った。 こうした追加調査を踏まえて、つぎの検討結果を引き出すことができた。すなわち、日本の工場立ち上げ過程は、製品情報の厳密な製造過程への情報転写の過程である。だが、この転写過程は製品設計図面の情報内容だけでは転写は不十分であり、製造過程に存在する知識、経験が加味されて転写は達成される。そのため製品情報からの転写の精度と速度のみで、転写過程の内容を評価することはできない。転写過程の実態は企業内組織の連携と分業、企業外の協力企業との共創的情報形成など、企業内外に存在する転写ファクターが結合した結果によって達成されている。 研究対象として注目した工場エンジニアの活動では、日本企業独自の生産技術-製造技術-オペレーターらの三層分業構造によって確認でき、生産技術者と製造技術者の連携によって製品情報が製造情報へと転写される。なかでも生産技術情報と現場オペレーターの間に立つ製造技術者は、日本企業独自のポジションであり、このポジションと製造技術者の役割形成が日本のものづくりの中心を担っている。日本企業の製造能力を左右すると考えられるこうした転写の過程の内実については、さまざまなタイプとプロセスが考えられ、今後とも国際比較の視点から検討が欠かせない。
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