研究課題/領域番号 |
16K03830
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
足立 光生 同志社大学, 政策学部, 教授 (90340215)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 企業経営 / 企業価値向上 / 政策提言 / 持続的成長 / ROE / イベント・スタディ / マルコフ・スイッチング・モデル |
研究実績の概要 |
本年度は、当該研究の核心に触れる研究として、企業価値向上に関する政策提言が市場にもたらす影響について考察した。 近年、わが国では、企業価値向上を通じて経済の持続的成長を図る政策提言が各種機関より行われている。そうした政策提言の一例として、2014年に発表された伊藤レポートでは「日本型ROE経営」が提唱され、望ましいROE水準を最低限8%とした。当レポートは資本コストを勘案したうえで望ましいROEの水準を提示しているにも関わらず、数字のみが短絡的に受け止められた感は否めない。ROE改善のために財務レバレッジを活用する企業が増加し、企業経営のあり方に関する議論も高まっている。このような状況のなか、本年度は、今後の企業価値向上に関する政策提言のあり方、ならびに今後予想される方向性ついて考察を行った。特に、本年度は事例検証として企業価値向上に関する一政策提言を取り上げ、そうした提言が株式市場にもたらした影響について検証を行った。最初に、政策提言が行われた日について、イベント・スタディ (Event Studies) の手法、とりわけAR(Abnormal Return、超過収益率)とCAR(Cumulative Abnormal Return、累積超過収益率)を用いて、イベント日としての適切性を検証した。その後、レジーム転換の有無に着目し、検証ツールとしてマルコフ・スイッチング・モデルを導入した。具体的にはTOPIXの収益率に対してマルコフ・スイッチング・モデルを2パターン適用することで、その事後確率を抽出して検証した。さらに、業種間によってその反応に違いが考えられるため、TOPIX-17の2つの業種別株価指数の収益率に対しても同様の検証を行った。こうした結果をふまえて、企業価値向上に関する政策提言のあり方、ならびに今後の方向性についてまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、わが国で近年活発化している「企業の経営効率を改善することを通じて経済の持続的成長を図る提言」を対象とするものである。わが国では『企業の「稼ぐ力」を取り戻す』を謳うアベノミクスに起因する形で各種諸機関より上記の企業への経営効率改善の提言が盛んになった。本研究課題は、企業への経営効率改善の提言が真に企業価値を高め、経済の持続的成長に結びついたか否かを検証するところに特徴がある。 本研究課題において今年度が1年目ということもあり、研究の基盤を固めるため基礎研究に邁進した。現在のわが国の企業がおかれた状況、上記提言に関する状況、さらに分析を行うための適切な手法の開発に邁進した。特に今年度は、イベント日としての適切性を検証するために、イベント・スタディにおける様々なツールを使うと同時に、検証方法としてレジーム転換の有無に着目し、マルコフ・スイッチング・モデルを使用した。 基礎研究に多少時間を要したことはあったものの、1年目の成果としては「研究実績の概要」にも書いたように、該当研究の核心に触れる研究となった。さらに、1年目の研究は2年目、3年目と続く本研究課題の大きな下地となったものと自負している。以上のように自己点検をした結果、本研究課題においておおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方法について、大きく二点から論じたい。 第一に、今回、基礎研究を固めるなかで、マルコフ・スイッチング・モデルの有用性を見出したことの意義は深く、今後も新たに、具体的な事例検証を抽出しながら、より発展的な検証を行いたいと考えている。特に今年度の研究ではマルコフ・スイッチング・モデルを適用した後、事後確率をとりだしてレジーム転換の有無を視覚的に検証したが、マルコフ・スイッチング・モデルにはそれ例外にも様々な検証方法が存在するため、今後もチャレンジしていきたい。 第二に、本年度の研究ならびに今後予定している研究をふまえて、より発展的かつ高い視点の研究を遂行したい。1年目は『企業価値向上に関する政策提言が市場にもたらす影響』を主眼としたが、『企業への経営効率の取り組みが経済全体に及ぼした影響』を明らかにするための、より高い視点へ移行していきたい。これについてもより適切な手法が求められるため、イベント・スタディ、VAR モデル、マルコフ・スイッチング・モデル等による検証に限定することなく、複雑系等の決定論的視点からの考察も行うことも重要と考えられる。例えば、マシン・ラーニング、遺伝的アルゴリズム、ニューラルネットワークからの決定法についても検討していきたい。そして、本研究課題の最終目標である『経済の持続的成長を達成するための企業経営のあり方について企業、国民に向けて幅広く政策提言を行う』ことを可能とするべく、これからも研究に邁進する所存である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究自体の進捗状況については、今年度はおおむね満足できる水準に順調に行われていると考えるが、研究費の執行状況については当初予定していた水準まで達することはできなかった。これは基礎研究に時間がかかり、発展的な課題に着手することが遅くなってしまったためと考えられる、次年度以降は本年度の成果をふまえて、より実りある成果を得たいと考えている、
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次年度使用額の使用計画 |
解析を行うための情報処理機器の購入を積極的に行いたい。演算処理速度が高速なワークステーション、あるいは同等クラスのPC、出張先での演算や執筆を可能とするために小型のパソコン、さらにはデータを取り込むためのスキャナ、プリンター等の購入を検討したい。さらに調査・取材・資料収集のための旅費について積極的に研究費を使用していきたい。最新の手法を調査するための研究会、学会への参加等を増やしていきたい。
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