2012年12月に第2次安倍晋三政権が発足して以降、経済の持続的成長を目的として企業のコーポレートガバナンス改革を謳い、企業に対して政策提言を行う潮流がある。そうした提言のなかには、たとえば2014年の伊藤レポートのように、企業の資本効率改善に関して具体的な数値目標が示される場合もある。本研究では、資本効率改善に関する政策提言が実際の企業経営に結びついた可能性、また、その場合の波及経路について考察する。本研究では最初に、企業の資本効率に関する指標を対象として企業規模群別にイベント・スタディを基盤とする視覚的検証を行った。そのような検証結果においては、伊藤レポートの「日本型ROE経営」が世の中の企業の資本効率改善にインパクトを及ぼした可能性が考えられる。ただし、その後、Hodrick-Prescottフィルターによって時系列のトレンド成分を抽出し、トレンド転換の有無について検証したところ、世の中の企業が資本効率を意識して改善を目指していたのは伊藤レポート発表以前からの可能性が高く、多くの企業は伊藤レポート以前にも独自に自社の経営効率改革を行っていたことが想定された。次に、VAR(Vector Auto Regressive、ベクトル自己回帰)モデルを導入し、政策提言の波及経路を検証した。具体的には、推計されたVAR(2)モデルを基盤として、Granger因果性検定で因果関係を検証するとともに、イノベーション計算の一つとしてインパルス応答分析を行った。さらに、予測誤差の分散分解を行い、RVC(relative variance contribution、相対的分散寄与率)の変動に関する検証を行った。このような分析結果から、従来から資本効率指標の開拓に余念なく、経営効率指標を追求していた大企業でも、伊藤レポートが広く世の中に普及する潮流を意識したことが示唆された。
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