研究課題/領域番号 |
16K03833
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
山田 雄久 近畿大学, 経営学部, 教授 (10243148)
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研究分担者 |
東郷 寛 近畿大学, 経営学部, 准教授 (10469249)
吉田 忠彦 近畿大学, 経営学部, 教授 (20210700)
山本 長次 佐賀大学, 経済学部, 教授 (70264140)
井上 祐輔 函館大学, 商学部, 講師 (90737975)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 制度的企業家 / 伝統産業 / クールジャパン / 産業観光 / 商社ブランド |
研究実績の概要 |
平成28年度には本研究の事例研究対象地域となる佐賀県有田町・長崎県波佐見町の肥前地区を中心とした陶磁器業の市場戦略、そして伝統産業の担い手となる主要メーカーや窯元、商社の企業者活動に焦点を当てながらフィールドワークを実施した。2016年という節目の時期を迎えた肥前磁器生産地を抱える佐賀県では、有田焼創業400年事業として、莫大な資金を投入する形で佐賀県の産業観光に対する各種事業を展開し、世界的デザイン賞を受けたヨーロッパ各地の主要コンクールに「ARITA episode2」というキャッチフレーズを用いて新製品開発へと取り組み、高い反響を受けながら佐賀県の重要施策として展開中である。このような外国人バイヤーとの取引活動を促進する販売機会を拡大することにより、伝統産業はクールジャパンの追い風を受けながら地域ブランドとしての評価を高める方向で現在国を挙げて取り組む体制が整いつつあると考えられる。 本研究では、以上の佐賀県・有田町、長崎県・波佐見町における伝統産業地域の活性化と伝統産業を軸としたまちづくり政策の最新動向について学術的観点に基づいて検証を行い、それらの地域戦略をリードする企業家の役割について、伝統産業の経営革新に加え、産業観光の担い手としての活動にも注目しながら調査を実施した。佐賀県では、地域経済活性化支援機構(REVIC)の支援を受けて、産業観光を軸としたまちづくり公社ならびに陶磁器観光施設の運営を開始しており、このような形で、伝統産業地域はインバウンドや都市部富裕層の滞在型観光地として急速に変貌を遂げつつある。産業と観光の相乗効果を狙う形で、伝統産業地域の再生と産地システムの再構築、若手企業家による新たなビジネスモデルの提案などが続出しており、激変する伝統産地のまちづくりの方向性について、アクションリサーチの方法論に基づきつつ調査研究を実施したく考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
伝統産業地域におけるケーススタディーを進めるべく、地域発展の中心的役割を担う企業家の活動に焦点をあて、業界や地域団体、地域社会のリーダーシップについて、地域ブランドや新たなビジネスモデルの創出主体としての役割を中心に歴史的視点を加えて検討を行った。陶磁器業では昨今、旧来の洋食器市場衰退の動きを受けて、和食器市場における新たな分野にわたる製品開発と商社・窯元・メーカーの協力関係に基づく商品化の取り組みが行われており、佐賀県有田町の香蘭社・深川製磁・有田製窯など主要メーカーにおける史料調査、さらにはヤマト陶磁器・賞美堂本店・犬塚商店・椋露地商店・丸兄商社・キハラなどの主要商社におけるヒアリングを通じて、歴史的視点に基づいた伝統産業地域の発展過程と昨今の革新的試みの数々について事実関係の検証作業を鋭意進めている。 佐賀県有田町では、日本磁器発祥・有田焼創業400年事業事務局が立ち上がり、同時に有田商工会議所が中心となって有田まちづくり公社が結成された。これら諸機関の運営に関与する企業家の動向について追跡調査を行い、伝統産業地域の経営戦略に関するヒアリングを実施した。隣接する長崎県波佐見町でも陶磁器業を中心としたツーリズム事業が展開しており、当該地域の窯元経営者であるNPO理事長、業界団体理事長に対するヒアリングを実施し、肥前地域における産業観光の現状に関する実地調査を本格的に行った。 佐賀県・長崎県に加え、和食器産地として現在も生き残る京都府・岐阜県・石川県ほかの窯業地域における企業家の活動を明らかにするべく『陶業時報』のバックナンバーについて調査を開始した。現在日本の陶磁器業界で唯一継続する業界誌として陶業時報社の情報は貴重な存在であり、陶磁器産地の歴史的検討を行う上で不可欠の資料と考えられる。陶磁器業界の重要資料として活用することで、本研究の進展が期待できる状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度には引き続き肥前地域の伝統産業地域における制度的企業家の戦略についてフィールドワークを実施し、若手企業家を中心とした伝統産業の革新プロセスについて検証作業を進める。佐賀県有田町を中心とした陶磁器業界の展開過程に関する研究書を早急にまとめると同時に、長崎県ほかの陶磁器産地におけるまちづくりと産業観光を通じた地域存続の可能性について地元関係者の協力をもとに検討し、本研究のフレームワークを陶冶していく中で、研究成果を地域社会に対して提示する。アクションリサーチに基づき、伝統産業地域の価値創造システムに関する研究を引き続き実施する。 本研究の成果については、既に海外の経営学会において報告する機会を得ており、今後もその方向性を堅持しつつ、日本の伝統産業に対する外国人研究者からのサジェスチョンをふまえた研究成果のブラッシュアップを進める。特に日本の企業家による伝統産地再生の試みが、欧米の産業地域に対する新たなビジネスモデルの提示となるケースも大いに期待できる。 欧米の手工業地域における企業者活動の比較研究を同時に進めることで、成熟化時代における伝統産業の経営課題へと企業家がいかに対処し、日本の伝統産業における経営戦略としていかなる方策が得られるのかを見極めることも可能となり、グローバル化時代に対応した企業者活動の役割についても、今後本研究の重要なテーマとして取り上げることが可能であると考えている。 少子高齢化時代を迎え、地方の伝統産業地域における後継者の不足、家族経営を母体とした伝統産業の存続の可能性について新時代に対応したビジネスモデルを構築することが現在の伝統産業を活用した地方の政策課題の一つとして注目される。地方自治体の協力に基づく産官学が連携した研究テーマとして、本研究のフィールドワークと地域社会におけるまちづくりとの共同作業にも取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度には佐賀県・長崎県における現地調査を研究代表者が中心となって行い、研究分担者4名は主に研究代表者が実施した調査資料の整理ならびに分析を中心に作業を実施したため、研究出張費をあまり必要としなかった。また、研究対象であった有田焼創業400年事業が大阪で2回開催されたことも影響し、現地での調査を代替して行うことが可能となった。 東京に本拠を持つ陶業時報社における資料複写作業については、会社の資料提供者の事情も影響して、平成28年度での調査が十分に実施できなかった。翌年度以降に調査を実施する方向で了解を得て、作業の準備を進めている。平成28年度に完了できなかったデータ入力作業については、平成29年度以降、学生アルバイトを用いて進めたく考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度以降、各地の産地調査を見据えた比較研究を実施する必要が生じていることから、平成29年度以降の現地調査により多くの研究費を活用し、とりわけ調査が進んでいない長崎県波佐見町におけるフィールドワークにより多くの研究費を充当したく考えている。特に長崎県域には陶磁器業に関する歴史資料が数多く存在することから、それら資料の調査と複写作業が必要となるため、平成29年度に調査を実施する予定である。東京の陶業時報社バックナンバー資料については、平成29年度以降随時複写作業を実施する形で、より完全なデータベースを作成したい。 以上のような状況下で、平成29年度以降長崎県域、そして東京の陶業時報社での調査により多くのエネルギーを投入する形にて本研究の成果を上げていく予定である。
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