研究実績の概要 |
本研究の目的は,コンテンツビジネスにおけるグローバル・シナジーを生み出すための事業システムを解明することである.研究期間の後半では,進出国市場の多様性に適応しながら,国際間の事業間調整を行う事業システムが生み出すグローバル・シナジーのメカニズムを明らかにする予定である. 今年度は,アニメとキャラクター商品の調査を行った.海外を含む売上高のマクロデータによると,日本のアニメ産業は好調であり,アジア(特に韓国・台湾・中国)と米国,フランスにおける需要が高い.インタビュー調査においても,海外の売上高および利益は順調に推移していることが明らかになった.一方,キャラクター商品事業の海外進出では,日本国内で生産した製品を輸出するという形態と,現地の製造企業にライセンスを供与するという形態が存在する.後者の現地(香港)企業へのインタビュー調査では,消費者の著作権に対する意識が高まったことにより,海賊版による逸失利益は減少している反面,日本からの輸入品が自社のライセンス商品の売上を圧迫していることがわかった. 昨年度に実施したコミック事業の調査においても,国内の複数の出版社によるアライアンス(一部,小売業も含む)をベースに国際展開を進めていることが明らかになっている.今年度の調査によるキャラクター商品事業の二重構造における問題点とあわせてみると,海外事業においては,国内事業以上に事業システムが複雑になっていると考えられる.この複雑性については,単にプレーヤーの数が増えた,あるいは1業種から複数の企業が参加することだけに留まらず,進出国によって事業システムが異なることも意味している.これらの複雑性を前提にグローバル・シナジーを生み出すには,国内事業における1業種1社で構成された事業システムでは機能していた相互依存関係とは異なる仕組みが構築されている,あるいは構築されなければならないと考える.
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