本研究の目的は,コンテンツビジネスにおいて,グローバル・シナジーを生み出すための事業システムを解明することである.研究期間の後半では,進出国市場の多様性に適応しながら,国際間の事業間調整を行う事業システムが生み出すグローバル・シナジーのメカニズムを解明することであった. 一昨年度に行ったコミック事業の分析では,国内の複数の出版社(一部,小売業も含む)によるアライアンスをベースに国際展開が進められていることが明らかになった.昨年度のアニメ事業に関する調査では,国際展開においても,日本国内と同様の事業システムが機能しており,売上および利益が順調に推移していることがわかった.一方,キャラクター商品事業については,日本国内で生産した製品の輸出という形態と.進出国の製造企業にライセンスを供与する形態に二分されており,この二重構造がカニバリゼーションを引き起こしていることが解明された. これらの研究成果を踏まえて,今年度は,コミックとアニメ,キャラクター商品の3つの事業間において,国際間の調整がいかに行われているのかについて調査と分析を行った.その結果,大別すると,米国と欧州,アジアにおける事業間調整は,それぞれが異なる事業システムを構築していること,そして,それらの事業システムは,国内の事業システムとも異なっていることが解明された.地域ごとに異なる事業システムが生成される要因は,第1に,事業をリードする出版社またはアニメ製作会社の拠点が地域内にあるか否か,第2に,事業システムに組み込まれるメンバー企業の海外経験(海外進出の歴史の長さや進出国数,海外事業の重要性など)であることが明らかになった.しかしながら,これらの事業システムが生み出すグローバル・シナジーの特徴やメカニズムについては,まだ未解明の部分が多いため,今後の研究の課題としたい.
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