研究実績の概要 |
令和1年度は、最終年度なので、集大成としての著書の執筆を行なった。日本経済新聞出版社から出版する「アート思考のものづくり」の原稿を完成し出版社に提出した。全体的なまとめとしての位置付けと、その中でも最重要な「アート思考」に関する議論を展開し、その事例として、マツダの「魂動デザイン」を取り上げた。 本研究の最大の貢献であるSEDAモデルでは、Science, Engineering, Design, Artを融合した価値づくりの重要性を理論的、実証的に明らかにした。理論的には、SEDAモデルの全体フレームワークの構築を行なったが、その学術的な貢献が大きいと考える。そのフレームワークの中で、2種類の統合についての調査研究を主体とした。 第一に、デザインとエンジニアリングの統合である。これらは、前者が文系的・右脳的な思考であるのに対して、後者は理系的・左脳的なアプローチである。問題解決に対するアプローチの方法が全く異なるので、調整・統合することが極めて難しい。一つの解決策が、一人の人間が、デザインとエンジニアリングの両方を専門的に学んだ「デザインエンジニア」の活用だという点を明らかにした。その成功事例としてダイソンに関する論文を執筆した。 第二に、デザインとアートの統合である。デザインとアートの基本的な差異は、デザインは顧客のために、アートは自己表現のために行う。つまり、デザイン思考は、顧客がかかえる問題を直接的に解決しようとするのに対して、アート思考は、社会的な使命など一段高度な視点から、表現したい哲学や思い、実現したい理想を提起する。アート思考を実施しているマツダの魂動デザインに関して、論文と著書を執筆した。 SEDAモデル、および、具体的にはデザインエンジニアリングとアート思考の提案によって、日本のものづくりが将来、再度世界を牽引するための戦略立案に貢献できたと考える。
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