研究課題/領域番号 |
16K03866
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
青木 宏之 香川大学, 経済学部, 教授 (00508723)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 転居転勤 / 雇用管理 / 金融機関 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、地方銀行と保険会社の雇用管理を調査した。正社員の転居転勤は日本の雇用システムの特徴であり、人材育成や雇用量の調整において重要な意味を持つと考えられてきた。しかし現在、女性の活躍推進とワークライフバランスの要請が高まっており、企業にはそれへの対応が求められている。そこで今年度は、転勤が多いことで知られる金融業の雇用管理を取り上げ、とくに近年導入が進んでいる地域限定正社員の活用に注目した。主な発見事項は以下の通りである。 第一に、地域限定正社員の活用実態については、調査企業は、いずれも地域限定正社員を積極的に活用する方向で人事制度の改訂を進めていた。しかしその進捗には一定の差があり、地方銀行A社とB社の地域総合職は、今のところ、補完的な位置づけにあり、家庭の事情で転勤ができなくなった総合職への対応や一般職の優秀層の活用などの目的で活用されていた。それに対して、地方銀行C社やE社ではそうした活用を超えて、地域総合職が従業員区分の柱の一つとなっていた。こうした違いは、地域限定正社員の活用の歴史の長さによるものであることをが明らかになった。 第二に、総合職の移動のメカニズムについて検討した。各社の人事担当者は、ワークライフバランスの点は別として、人材活用の観点からは、幅広い異動が効果的であると認識していた。異動を通じて、多くの上司や同僚からノウハウを吸収し、多様な顧客を扱うことで成長することができると考えられていた。異動に伴う関係性や情報の喪失については、引継ぎで対応しうる範囲のものととらえられていた。しかしその反面で、生命保険会社の事例では、同じ職場に長く勤め続けることのメリットについても発見することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は金融機関への調査を通じて移動のメカニズムや地域限定社員の活用のあり方についての検討を進めることができた。近年その活用が拡大している地域限定正社員の採用、活用、あるいは総合職との職域の違いなどを明らかにした。また、総合職の転勤のメカニズム、その人事材育成上の意義を明らかにした。その成果は、香川大学経済研究所のワーキングペーパーにまとめた。 また、以上の検討を通じて、今後の課題が浮き彫りになってきた。地域限定社員の職域は広がっていたのであるが(たとえば従来総合職の仕事であった法人営業を地域限定社員が担っていた)、高いスキルを求めるほど、人材育成上の課題が顕在化するに違いない。なぜなら、従来の熟練形成においては、幅広く異動し、多様な職場環境を経験することが重要であったのであれば、地域限定正社員の育成には一定の制約があると考えられるからである。 本調査の主目的である転居転勤の経済合理性という論点は、逆説的であるが、転居転勤できない従業員の育成や活用の制約を見極めることによって、明らかにすることができると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度はサービス業を中心に調査を進める予定である。全国的にチェーン展開するサービス業において、地域限定正社員がどのように活用されているのかを明らかにする。当初は製造業を予定していたが、まずはサービス業の調査を優先したい。サービス業のほうが地域限定正社員というテーマで調査協力を得やすいと考えるからである。 調査は、主に人事担当者へのインタビューを通じて、地域限定社員の採用、育成などの雇用管理を明らかにする。同時に総合職社員の、転居転勤の目的、従業員の属性、職位、異動の範囲やパターンなどを調べる。さらに、そうした転居転勤の運用を理解するために、当該企業の経営戦略、支店の権限関係・連携関係、人材育成・雇用管理の方針を包括的に明らかにする。 同時に、転居転勤とワークライフバランスとの関係について検討したい。この点は、人事部へのインタビュー調査と同時に、労働組合へもアプローチしたいと考えている。労働組合員のワークライフバランスのために、労働組合がどのような活動を行っているのかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は4,951円であり、誤差の範囲であると考えている。旅費を節約することができ、その分物品費として図書などを購入した。
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次年度使用額の使用計画 |
上述の通り、繰り越しは少額であり、基本的には、平成29年度は当初の予定通りの支出を予定している。400千円の交付金のうち320千円を旅費として支出する予定である。
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