研究課題/領域番号 |
16K03873
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
小沢 貴史 大阪市立大学, 大学院創造都市研究科, 准教授 (50367132)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 国産製品 / 出荷推移 / 超長期 / 最大値更新率 / 出荷水準倍率 |
研究実績の概要 |
本年度は、国産製品の市場のあゆみを振り返り、需要が成熟・衰退している市場と、対照的に成長軌道にある市場の判定を試みた。1970年から2009年までの超長期にわたる出荷データを用いて、市場を支配する全体的な傾向を識別した。出荷データの最大値更新率に見る成長の持続力と、出荷水準倍率に見る成長の跳躍力を吟味することで、その識別を試みている。 衰退市場に関する先行研究の多くは、衰退市場の選定が限定的、ないしは恣意的である。これらの研究では、市場の衰退化を受けて、在来企業群がいかに戦略を策定・実行すべきかということに焦点が当てられている。経営学では、成長傾向にある産業や市場の論理に関する研究の蓄積が厚い。しかし成熟・衰退傾向にある産業や市場、企業に関する研究は、その魅力に乏しいのか、敬遠される傾向にある。 本年度の成果として、最大値更新率が11.1%未満、すなわち最大値を更新する頻度が9年に1度を下回り、かつ出荷水準倍率が1を下回る市場を、衰退市場と判定した。最終的に衰退市場と判定された市場は、598に上る。一方、最大値更新率が33.3%以上、即ち3年に1度を超える頻度で最大値を更新する、もしくは出荷水準倍率が毎年5%の率で成長を遂げた場合に相当する市場を、衰退市場の対照群と判定した。その数は、136市場に上る。 先行研究では、市場で取引を織り成している企業と顧客との相互作用、及び競争と協調による企業(売り手)間の相互作用の帰結により、市場の成長と衰退がどこで分かれているのかについては明確になっていない。今後は、衰退市場と対照群とを分けるポイントについて、明らかにしていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
所属組織の変革や、ゼミ生の増加に伴い、研究指導に充当する時間が増え、当初の計画にあったエフォート率35%の確保が難しかったことが、進捗状況のやや遅れの背景にある。 とはいえ、先行研究のレビューは順調に進んだものと認識している。文献調査を通して、ジェネリック・マーケティングの特徴や事例、業界全体の努力であるジェネリック・マーケティングが需要の成長にどのように結びついているのか、そのメカニズムを考察する上での素材の収集を行ってきた。またプラスサム競争や複合競争分析、競争的創発プロセス、需要の成長を駆動する同質的競争、マーケティング・リフレーミング、インフォメーション・カスケードの理論(先行する他者の行動から、自分の得ていない情報を推察して行動するときに起こる群衆行動の理論)、伝染の理論など、衰退化や再活性化に影響を与える複数の要因が連動する事象を扱った先行研究もレビューを行なってきた。その成果は、教育における素材にも反映できている。 今後は、業務の多忙さに埋没しないように、研究の推進を心がけていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
「工業統計調査」用の産業分類の小分類(3桁)ないしは細分類(4桁)で、同一の分類に属する衰退市場と再活性化市場を取り上げ、マッチングペア分析を行う。これは同一、または類似の外的要因が影響を与える市場をペアとして比較する事で、在来企業群による競争と協調の態様や、成果の違いをより浮き彫りにしようというものである。また需要が停滞・衰退している局面の成長率(衰退率)の違いをみる事で、再活性化に向けた助走期間の特徴を明確にする。再活性化前の停滞・衰退の期間は、どのくらい続くのか。助走期間における衰退率は、緩やかに、それとも急激に高まるのか。更には衰退ではなく、横ばいの停滞状態が続くのか、等を明らかにしたい。 そして取り上げた衰退市場と再活性化市場を事例として取り上げ、当該市場に関する公刊データの分析により、衰退化と再活性化の要因を特定化し、それらのメカニズムに関する密な記述を行う。事例として取り上げた市場に関する動向や企業行動、統計などの公刊データをはじめ、新聞や雑誌の記事を広く集め、出来事の連鎖を記述する。そして出来事の連鎖の背景にある在来企業群の戦略や、その意図を探る。 また在来企業間で競争のルールや争点が成立する場合、それらの変容の契機や、そのメカニズムについても記述する。そして在来企業群の競争と協調のダイナミクスを記述する中で、意図せざる結果を導出する。市場の衰退化や再活性化のメカニズムは、公刊データだけで密な記述が図れるとは限らない。そこで業界団体をはじめ、当該市場で活動を展開している企業群へのインタビューを行ったり、内部資料を収集したりする事で密な記述を補完し、その精度を上げる。そして「衰退市場は、なぜ長期的に停滞・衰退し続けているのか」、及び「再活性化市場は、どのように停滞・衰退から再成長に転じる事ができたのか」について考察したい。
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