研究課題/領域番号 |
16K03885
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研究機関 | 駒澤大学 |
研究代表者 |
小本 恵照 駒澤大学, 経営学部, 教授 (50554052)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | フランチャイズ / リスク / 成長 / 質的比較分析 / ビジネス・モデル |
研究実績の概要 |
フランチャイズを用いたビジネス・モデルの構築・活用を検討する上では、「成長」とそれに付随する「リスク」をいかにバランスさせ、制御できるかが重要な判断要素となる。この認識を踏まえ、2016年度は「リスク」に関連する概念や理論の検討と、その成果を踏まえた実証分析を行った。 1.リスクに関連する概念と理論に関する文献調査 リスクに関する文献を「不確実性」の概念と関連づけ包括的に分析した。その成果を論文として発表した。分析結果によると、「リスク」は様々な分野で研究対象として取り上げられており、リスクの定義自体が研究者によって異なることが明らかになった。しかし、近年では、リスク概念をより統合的な立場から定義する試みが社会学の立場を中心に試みられていることが判明した。 2.フランチャイズ利用に関する実証分析 フランチャイズを利用するビジネス・モデルが、主に成長志向とリスク制御という要因によって設計されると想定し、そのプロセスを理論化した。具体的には、リスクの制御には知識移転や従業員の熟練などが関係するが、その影響は成長志向の強さなどによって変動するといった、複雑なプロセスになっているという仮説を構築した。 この仮説を検証するために、飲食業の売上高上位1,300社の代表者に対して郵送による質問票調査を実施し、約160社から回答を得た。回収された調査票の中から未回答の調査票等を除いた約120社について定量的分析を加えた。分析では、集合論をベースとする質的比較分析法による分析を行った。その結果をみると、想定した要因では、フランチャイズを「利用する」という行動は説明できないという結果となった。しかし、「利用しない」という行動(直営店方式)については、想定した要因が複雑に関連することによって生じていることが明らかになった。なお、これは伝統的な回帰分析による分析では検出できない結果であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度は、文献のレビューなどを踏まえ、フランチャイズを利用するビジネス・モデルが採用される要因を実証的に分析することが目標であった。 文献レビューについては「リスク」概念を中心に実施した。それによると、リスク研究が多彩な分野で行われてきたことを認識するとともに、近年になって急速に進展しているリスク研究の中から経営学に関連する知見を習得することができた。また、フランチャイズを利用するビジネス・モデルに関する実証分析も、仮説構築から質問票調査の計画・実行・分析という一連の作業を順調に遂行することができた。また、現時点での分析結果から一定の新たな知見を提供できる目処が立っている。こうした結果を踏まえると、「遅れている」という基準には該当しないと判断した。 しかし、理論的検討では、「ビジネス・モデル」に関連する概念の検討を十分に進めることができなかった。より具体的に述べると、「ビジネス・モデル」概念の批判的検討、コンフィギュレーション (configuration:配置) や類型化 (typology) といった関連概念を踏まえた「ビジネス・モデル」概念の精緻化に関する作業についてはある程度の進捗をみたが、対外的にその成果を発表できるレベルには到達しなかった。また、実証分析については、フランチャイズの「非利用」については仮説を支持する結果を得たが、「利用」については現時点では満足な結果が得られていない。これは、調査の設計等に課題があったことを示唆する。たとえば、調査対象の設定や質問票の設計で工夫の余地があったと考えられる。これらの点については2017年度以降に対応すべき課題と言える。 上記の課題や不十分な点を踏まえると、「当初の計画以上に進展している」という評価はできない。したがって、総合的には、「おおむね順調に進展している」という評価が妥当だと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1.理論面での研究 理論面については、まず、「ビジネス・モデル」、「コンフィギュレーション(configuration)」、「類型化 (typology)」といった構成概念を中心に文献レビューを行う。また、それと並行して理論構築 (theory building) に関する文献の検討を加える。最近では、理論構築に関する議論が活発に行われているからである。これらの作業により、本研究に関する理論の基礎を構築するための準備ができると判断する。 次に、理論構築に関する最新の議論を踏まえた上で、既存の構成概念に対して検討を加える。具体的には、構成概念の使用方法や定義を精査する中で、構成概念の精緻化もしくは新たな構成概念を導入することでより強固な基礎を持つモデルの構築を目指す。これにより、最終的にはフランチャイズを用いた「ビジネス・モデル」に関する新たな理論の構築を行うとともに、未だ十分に確立していない「ビジネス・モデル」概念の精緻化を図る。 2.実証面での研究 実証面では、構成概念の検討を踏まえ、フランチャイズの利用に関する分析を引き続き行う。また、フランチャイズ形態は一様ではないという現実がある。たとえば、本部の加盟店に対する制御の強さや加盟店の形態(複数店経営など)などには、企業によってかなりの相違がある。こうした現実を踏まえ、多様なフランチャイズ形態が生じる要因について分析を加える。分析については、伝統的な質問票調査をもとに統計的分析を実施する。しかし、実証分析方法についても新たな手法が開発されていることを踏まえ、最先端の分析手法に関する情報を積極的に収集し、当該分析手法の習得に努力する。なお、分析手法では、コンピュータによるシミュレーションについても検討を加えることとしたい。こうした取り組みによって、従来の手法では検出できなかった効果の計測などが可能になると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
図書の購入やプリンターのトナーの使用などが当初の計画を若干下回ったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年度に実施予定の質問票による実証分析の対象企業数を増やすための費用、もしくは図書の購入費用などに充当することとしたい。これにより、より精度の高い分析を実施することが可能になると考える。
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