研究課題/領域番号 |
16K03899
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
安藤 直紀 法政大学, 経営学部, 教授 (50448817)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 国際経営 / 多国籍企業 / 制度理論 / 地理的多角化 |
研究実績の概要 |
制度が多国籍企業の経営に与える影響は、国を分析単位として研究されてきたが、各地で進む経済的な統合により、国を単位として研究を進めることが研究の限界になる可能性が出てきた。地域的な経済統合が、地域内各国の制度に影響を与える可能性を考慮すると、多国籍企業の行動は、国と地域という2つの制度によって影響されると推察される。このような背景のもと、本研究では、制度理論を基盤とした多国籍企業の研究に、地域の制度という視点を導入することを試みている。 計画経済から市場経済に移行し、現在EUの加盟国であるハンガリーと、EUから離脱したイギリスでインタビュー調査を行った。ハンガリーでは、主に、国の制度についてヒアリングを行った。ハンガリーはもともと市場経済に近い形で経済が運営されていたので、市場経済への移行にともなう困難は比較的深刻ではなかったようである。イギリスでは、EUから離脱することで、どのような制度的変化が予想されるかについてヒアリングした。また、日本企業のヨーロッパ内海外子会社が、どのようにコミュニケーションし、協業を行っているのかについてもヒアリングした。ヨーロッパ内のすべての海外子会社が十分な経営資源を保有しているわけではなく、複数の海外子会社が協力しあいながら、ビジネスを行っていることが分かった。 一方で、日本企業のパネルデータを用い、地域内での地理的な多角化の程度が、地域内の海外子会社の業績に与える影響を分析した。分析から、地域内での地理的な多角化は、地域内の海外子会社の業績に正の影響を与えるが、正の影響は、ホスト国に多くの海外子会社があるとき弱まることが分かった。また、海外子会社が他の日本企業との合弁会社である場合にも、地域内での地理的な拡大からの正の影響が弱まることが分かった。このような海外子会社は、地域内の姉妹子会社との協業を必要とする度合いが相対的に低いと推察される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
日本企業のパネルデータを活用した量的研究については、おおむね順調に進捗しているといえる。これまでの分析から、地域をどのように分割するかによって分析結果に違いが生じるので、結果の頑強性を示す必要があることが分かっている。このため、地域の分類を数パターン作成し、分析を精緻化した。国レベルの制度や地域レベルの制度を構成する要素に関しても、合意されたものはないため、時間をかけて検討を行ってきた。どのような要素を制度に含め、国および地域の制度を操作化するかも、分析結果に影響を与える。このため、制度の操作化を複数の方法で行い、これまで分析から得られている結果の頑強性を検討した。データ分析については、引き続き試行錯誤が必要であるが、おおむね順調だと評価できる。 一方で、質的研究に関しては、計画に準じて遂行することができなかった。今年度はヨーロッパを中心に日本企業の海外子会社へのインタビュー調査を行う予定だったが、企業に研究の趣旨を説明し、協力を要請するのに予想以上の時間を要した。また、ヨーロッパの多くの国へ出張し、現地調査を行うためには、当初予想していた以上の日数が必要だということもわかった。これらのため、十分な数のインタビュー調査を様々な国で行うことができなかった。研究に必要なヒアリングを行い、日本企業の地域内の活動についての研究フレームワークを精緻化していくためには、インタビュー調査はまだ十分だとは言えない。 日本企業のパネルデータを用いた分析結果を、論文にまとめ、学会報告を行った。また、学術誌への投稿も行った。これらから、研究成果の発表という面では、おおむね順調に推移したと思われる。 上記から、順調である部分がある一方、遅延している部分もあるといえる。このため、総合的には、やや遅れていると評価されると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
研究の最終年度となるため、質的研究と量的研究、それぞれからの成果を融合させていく予定である。質的研究に関しては、ヨーロッパを中心に行う予定である。しかし、新型ウイルスの感染拡大に伴い、ヨーロッパ内は移動が制限された状態になっている。対面式でのインタビューは最も得られる情報量が多いので、移動の制限が解除され、安全が確認されしだい、現地でのインタビュー調査を行う予定である。一方で、不確実な要素も多いため、ビデオ会議用ソフトウエアなどを活用してのヒアリングも行っていこうと思う。 インタビュー調査をさらに進めることで、量的研究を精緻化していく。企業からのヒアリングを進めれば、各企業が、どのように地域を区分しているかがつかめるようになると思われる。これまで、すべての企業が同一の地域区分をもつという暗黙的な仮定を置いてきたが、それを取り除き、分析を精緻化できると思われる。国や地域の制度の操作化も、インタビュー調査からの知見を活用し、精緻化していく予定である。 これまでは、国の制度と地域の制度の企業に対する影響を個別に分析してきた。研究目的を達成するためには、国と地域の制度の相互作用を明らかにする必要がある。2つの制度の相互作用がどのようなものであるかについても、インタビュー調査からの知見を活用して分析していく。 研究を進めるうちに、日本企業が、国と地域の2つの制度的環境下で、どのように企業活動を行っているのかを調査する必要を認識した。これについても、インタビュー調査を中心に探っていく予定である。地域内の海外子会社同士が、どのようにコミュニケーションをし、協業を行っているのかを、ヒアリングを通して調査していく。 インタビュー調査から得られる様々な知見を仮説化し、日本企業のパネルデータを用いた分析に活用していく予定である。分析結果は論文にまとめ、学会報告や学術誌掲載のかたちで公表していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
西ヨーロッパ、東ヨーロッパ、および北ヨーロッパで日本企業の海外子会社に対しインタビュー調査を多数回行う予定だったが、企業への協力要請に予想以上の時間を要した。また、1回の出張でヨーロッパ内の複数の国でインタビュー調査を行うことを考えていたが、思った以上に陸路での移動は時間がかかり、複数国を1回の出張でまわることは困難だった。このため、当初計画よりも少ない国でのインタビュー調査しか実施できなかった。インタビュー調査について、出張回数、出張日数ともに計画以下であったことが、次年度使用額が生じた主な理由だと思われる。 新型ウイルスの影響で多くの国が国境を閉じているが、通常の状態に戻りしだい、インタビュー調査のための出張を行う予定である。残額は、主にインタビュー調査のための出張費用として使用する予定である。
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