研究課題/領域番号 |
16K03903
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
太田 正孝 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (00123068)
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研究分担者 |
池上 重輔 早稲田大学, 商学学術院(経営管理研究科), 准教授 (30468855)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 異文化マネジメント / グローバル・リーダーシップ / レジリエンス / フォーリンネス / 戦略的提携 / 模倣的同形化 |
研究実績の概要 |
28年度は、それ以前の科研費(平成25~27年度)の研究成果と、本科研費(平成28~30年度)の成果が集中した年であり、後述する業績リストからも分かるとおり、論文、学会発表、図書の3領域においてそれぞれ複数の実績を残すことができた。特に、本研究課題の重要な柱である、日産・ルノー戦略提携におけるカルロス・ゴーンCEOの異文化マネジメントのメカニズムに関する研究成果は大きな成功を納めることができた。具体的には、文化を超えて効果を発揮するグローバルリーダーシップとは何かについて、Cross Cultural & Strategic Managementの特別号に英文査読論文としてアクセプトされたことは、本研究課題の妥当性が国際的に認知された証左であり、今後の研究の進捗に重要な意味をもっている。加えて、同論文を理論的に下支えする最も重要な国際研究成果と考えられる、GLOBE(Global Leadership and Organizational Behavior Effectiveness)が発表した Strategic Leadership Across Cultures を太田が監訳し、『文化を超えるグローバルリーダーシップ(邦題)』として刊行できたことは、本研究課題の進化のみならず、日本における異文化マネジメント関連の研究活動に優れた指針を与えることができたと自負している。 二つめの特筆すべき成果は、ヤマトグループによるTA-Q-BINのアジア市場戦略について、太田が客員教授を務めたIMDのCarlos Cordon教授と英文ケースを刊行できたことである。さらには、日本経済新聞出版社より『カルロス・ゴーンの経営論』を出版できたことや、同文舘出版社から『異文化マネジメントの理論と実践』を出版できたという意味では、28年度の研究実績は大変満足のいくものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前段の「研究実績の概要」で述べたとおり、本研究課題は多くのプロジェクトが非常に順調に進捗している。何といっても、日産・ルノー戦略的提携における異文化共生型マネジメントの調査研究は先進的かつ独創的である。Cross Cultural & Strategic Managementに英文査読論文としてアクセプトされたことがトリガーとなり、太田・池上が過去数年、日産財団、University of Pennsylvania Wharton School、IMDと共同運営してきたGlobal Resilient Leadership Programの成果が『カルロス・ゴーンの経営論』として2017年2月中旬に刊行された。発売2カ月足らずで4万部に達したことが追い風となり、今後はルノーのトップマネジメントならびに日産・ルノー戦略提携の関係者へのインタビュー調査、質問票調査が両社のグローバルネットワークの中で展開できることになったからである。さらに言えば、昨年11月に日産・ルノー連合は三菱自動車も傘下に納めることになり、3社間でのグローバル戦略提携の進展を直接調査できることになる。本研究課題が飛躍的に進捗する基盤が完成したと言えよう。 今ひとつは、ヤマトグループによるTA-Q-BINのアジアリージョナル戦略に大きな変化が生じた点である。ネット販売の急激な増大に伴い、ヤマト運輸がSales Drivers 不足を理由に宅配の受注拒否、再配達の回数の制限などの窮余策に追われ、ヤマトグループにとっては初期のアジア進出の戦略の見直しが迫られている。しかし、こうした出来事は日本型サービスビジネスが今後、アジアリージョナル戦略、さらにはグローバル戦略を視野に入れるときには避けて通れない潜在的課題であり、本研究課題がヤマトプロジェクトを積極的に進める必要があると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの報告から明らかなとおり、本研究課題は極めて順調に進展しているが、今後2年間の研究期間において特に留意すべきことは、大きく3つある。 一つは、日産・ルノー連合に三菱自動車を加えた、世界でも稀な大型国際戦略提携の事例に容易にアクセスできるポジショニングを最大限に活用し、持続性のある国際戦略提携の成功要因を異文化マネジメントの観点から深く分析することである。すでに7月6日にルノー側の提携責任者とのインタビューを予定しており、それを皮切りにルノー側と日産側のフィールドリサーチを海外の研究者と連携して進めていく。 二つめは、大きな岐路に立たされているヤマト宅急便のアジア戦略について、日本特殊的なサービスビジネスの側面とグローバルプレイヤーとして確保すべきサービスビジネスの側面をどのようにグローバル調整していくべきか、に焦点を定めた研究を積極的に推進することである。この点に関しては、後段で述べるとおり、3月下旬に予定していたタイヤマトの現地戦略がヒントとなると考えており、早急にタイでのフィールドリサーチに着手する予定である。タイヤマトは、既存のTA-Q-BINのASEAN戦略とは一線を画す、BtoB戦略に重点を置いた展開をするなど、日本型TA-Q-BINモデルからの進化を図っているという意味で貴重なケースだからである。 第三のポイントは、2016年度にはエフォートを注力できなかった電通の国際戦略の梃入れである。電通は英国イージス買収を契機に、デジタル化とグローバル化への舵を大きく切ったように表面的には見えるが、内面的には労働基準法の抵触、自らの成功パターンである伝統的な電通モデルからの脱却に手こずっている。その根底にあるのは日本型サービスビジネスモデルの原価いであり、まさしく異文化マネジメントの視点が重要な事例と言えるからである。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の大きな柱の一つであるヤマトグループのTA-Q-BINのアジア地域戦略に関する研究プロジェクトの一環として、2017年3月20日から22日の日程で、同グループのタイ子会社におけるフィールド・リサーチをするべく太田が研究出張の予定であったが、直前に体調不良となったため、大事を取ってキャンセルしたことが最大の理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
前段の「今後の研究の推進方策等」で述べたとおり、タイヤマトでのフィールド・リサーチはヤマトグループのTA-Q-BINプロジェクトにとって非常に重要な示唆を与えるものであると推測されるので、できるだけ早い時期に再調整して研究出張する予定である。
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