本研究の目的は、多国籍企業の二重の埋め込み(dual embeddedness)、すなわち本社-海外子会社間、海外子会社-現地アクター間という2つの組織間関係のマネジメントについて、組織論やHRMの観点から接近することにある。既存研究をレビューすると、海外子会社の埋め込みが探索的活動に与える影響はまちまちであり、海外子会社と他アクター間の組織間関係構築がモデレーターとなっているが、どのような組織間関係のマネジメントが求められるのかは不明確であることが明らかとなった。 最終年度にあたる本年度は、上記の点に着眼しながら、下記の研究実績を発表した。第1に、日本人の海外派遣社員の役割や海外子会社の位置づけの変化という観点から、パナソニックのインドにおける市場開発と現地トップ人材(日本人派遣社員および現地採用幹部社員)の役割、本社-海外子会社間関係のマネジメントに関するケーススタディを執筆した。そこでは、2名の日本人派遣社員がのべ20年以上にわたり、海外に長期的に派遣された経験に基づき、インド子会社と本社との関係性の改革を実施したことを論じた。 第2に、昨年度から実施してきた、教育関連ビジネスについて追加的なインタビューを実施した(ベトナム、インドネシア)。また日本国内レベルであるが、上場企業が展開する教育関連ビジネスの全体像と今後の方向性についての論考を取り纏め、論文として公表した。これらのケーススタディからは、以下の点が示唆された。まず、現地子会社で探索的活動の責任を担っているトップ・マネジャーやミドル・マネジャーに強い権限が与えられており、かつ長期的視点でのビジネス活動が行われていること、第2に、重要な現地アクター(たとえば政府関係機関、現地NGO)との関係構築についても、長期的視点で行うコンセンサスがとれていること、が挙げられる。
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