研究課題/領域番号 |
16K03916
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
伊佐田 文彦 関西大学, 総合情報学部, 教授 (80387646)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 社会ネットワーク分析 |
研究実績の概要 |
研究目標として,年々高騰する国民医療費の問題解決に資するため,医薬品の研究開発の効率化について,経営戦略論,経営組織論からアプローチしている。特に,医薬品メーカーによる企業単独の研究開発ではなく,企業間の連携による効率化に着目している。 企業間の連携によるオープンイノベーションは,医薬品業界に限らず,様々な業界において近年注目され,盛んに実施されるようになっている。医薬品業界においても伝統的な製薬企業と創薬ベンチャー企業との間などにおいて種々の取り組みがなされているが,一方で,必ずしも多くが成功している訳ではない。その1つの要因として,オープンイノベーションにおける組織間関係と言っても様々な形態があり,たとえば,製品や業界によって,それに適する組織間関係は多様である。たとえば,IT業界と自動車業界とでは,研究開発の効率化に資する組織間関係が違っていることが,諸先行研究などで指摘されている。そのため,医薬品の研究開発に適した組織間関係について,探索を続けている。 研究方法として,社会ネットワーク分析の手法を援用して,組織間関係の分析を行っている。社会ネットワーク分析の手法によって,定性的な議論や,外的妥当性等の課題を含むアンケート調査などの手法では得られない新規性のある知見の発見を目指している。特に定量的な分析によって,実証的に因果関係を明らかにすることで,研究上だけでなく,実務上の貢献をも目指している。 目下,医薬品業界に関して,社会ネットワーク分析の分析対象となるデータベースの構築,分析について,当初計画で今年度に計画していた研究内容を完了し,期待していたような種々の研究成果を得られた。研究結果については国際学会で報告するとともに,国際学会誌に受理され投稿済である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で前述のように,現在,分析対象となるデータベースの構築や分析について一定の成果を得た。 分析用データベースとして,出願特許の内,新規性の認められた登録特許情報を基本としたデータベースを構築した。過去10年間の医薬品関連特許の中から,共同出願特許を抽出した結果,約6,000件のデータが得られた。そのデータについて,様々な観点で分析した結果,特に製品特性の違いによって,研究開発における最適な組織間関係が異なることが明らかになった。諸先行研究において,医薬品のオープンイノベーションの効果について,必ずしも実証結果が一様でなかった要因の1つは,低分子と高分子,あるいは製薬と製剤といった製品ごとの特性の違いが混在していたからではないかと推論される。それぞれの製品特性によって,ネットワークの広さ,深さ,媒介性,固有ベクトル中心性等とった特徴の異なる組織間関係を戦略的に選択することで,研究開発のパフォーマンスを高めうる可能性が示された。 本研究成果は,国際学会にて報告を行うとともに,国際学会誌に投稿し,アクセプトされた(出版は来年度になる)。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに,医薬品の研究開発に関する分析用のデータベースを構築し,定量的な分析について一定の成果が得られた。30年度の研究の推進方策として,定量分析の結果をもとに,いくつかの特徴的な事例を抽出して深い事例分析を行うことで,定量分析結果の補完を試みる。 また,医薬品以外の業界に関して同様の定量的な分析を行い,医薬品業界との比較研究を行うことで,医薬品の研究開発の特徴をより明確にするべく進める計画である。比較対象として,情報通信業界,自動車業界等を予定している。30年度中に一定の成果が得られるように進め,分析結果がまとまるつど,国内外の学会等で成果を公表する。
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