本研究は、「なぜ経営資源が自由に流動するにも関わらず、税制や要素コストといった立地条件で見ると不利な特定の地域で『設計特化企業』が立地し、収益をあげ続けているのか」を明らかとすることを目的とした。 研究は2段階のステップを踏んだ。 第1のステップは、半導体産業を例に取り、主要な立地国である日、米、韓、台の4カ国について、国の立地要因(法人税率、減価償却期間、人件費、インフラコスト)の違いを調査し、設計特化企業(ファブレス)に対して、税制や要素コストに関わる要素価格の違いが、どの程度企業の収益に影響を与えるかについて定量的な分析を行い、各立地要因および為替レートが企業収益に与える影響について、感度分析を行った。 第2ステップでは、米国のファブレス企業が、立地条件が不利であるにもかかわらず、なぜ競争優位のポジションを築いているのかを明らかにするために、国の立地要因、産業クラスターといった地域の優位性、および、企業固有の能力について考慮し、総合的な競争優位について定量評価を行った。 その結果、製造特化(ファウンドリ)企業を含む半導体「製造」企業の場合は、国の立地優位と製品の付加価値による所有特殊優位の違いから、総合的競争優位性はかなり異なった値を示した。一方、半導体「設計」企業の場合は、総合的競争優位性はほぼ同じ値を示した。特に、米国の設計特化(ファブレス)企業は、立地条件が劣位であるにも関わらず、生産性の高さ(所有特殊優位)が立地の不利を上回り、台湾企業に対して競争上の優位性を維持していることが明らかになった。その要因として、米国の設計特化(ファブレス)企業の高い研究開発費比率や半導体設計技術に関する国際学会での圧倒的な論文採択数等の知的資本の形成と相関関係が強いという示唆を得た。
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