本研究では,事例研究を通じて,分析フレームワークを精緻化するとともに,最新のサプライチェーンの実態を戦略と現場の視点をふまえて明らかにして,新たな理論的体系化を図ることを目的としてきた。最終年度では,これまでの研究成果をふまえて,研究内容の一般化を目指すため,自動車部品サプライヤーからその他の企業へ考察対象を広げた。 ひとつめの成果として,「中小企業の成長とゆらぎ‐ある和裁企業のケースから‐」とした論文を著した。この論文では,経営戦略と生産現場がより密着した中小企業を対象に考察し,経営者と生産現場の社員との間でなされる,経営方針や働き方をめぐる活発な意見交換が企業としての整合性を生み出している事例としてまとめた。 ふたつめの成果として,「広島県における中小企業の新たな動き‐ものづくり企業のあくなき挑戦‐」という論文を著した。ここでは,広島県の中でも経営戦略の策定と生産現場を整合的に行ってきた中小企業を取り上げた。考察の結果,経営者の明確な方向性の提示があり,生産現場ではそれに合わせた中長期的な人材育成の方針転換がなされ,結果として戦略と生産の整合がとれた企業になっていたことを明らかにできた。中小企業ゆえに,地域社会との共生についても重要視している経営がとられていたことも事例から考察できた。 本研究期間内に明らかにしたかった内容については,比較的規模の大きな自動車部品サプライヤーのみならず,小規模な中小企業を研究対象に加えることによって,より明確にできた。戦略と現場の整合性においては,生産ネットワークごとの志向性,個別企業としての志向性が共存していたことを確認できた。特に,生産現場の成長が経営志向性に影響を与える経営現象についても確認できたことは意義深いものであった。
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