研究課題/領域番号 |
16K03920
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研究機関 | 松山大学 |
研究代表者 |
掛下 達郎 松山大学, 経済学部, 教授 (00264010)
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研究分担者 |
宿輪 純一 帝京大学, 経済学部, 教授 (50767217)
蓮井 康平 松山大学, 経済学部, 講師 (90780619)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 資本市場中心の金融システム / 大手銀行 / 収益構造 / 業務展開 / リテールバンキング |
研究実績の概要 |
本研究では、米国3大銀行グループの引受業務の実態に迫るために、英米大手銀行グループの収益構造と業務展開を比較考察した。両国は、同じく資本市場中心の金融システムであり、共通するところも多いが、本研究でみるように異なっているところもある。英米大手銀行グループの収益構造と業務展開における共通点と相違点を把握することによって、米国3大銀行グループの引受業務の内実を探ってみた。 まず、英米大手銀行グループのミクロデータによって、個々の金融機関の競争関係、すなわち英米大手銀行グループの収益構造と業務展開の一端を明らかにした。具体的には①英米大手銀行グループの収益構造における投資銀行業務の位置づけ、②同じく業務展開におけるリテールバンキングの位置づけを考察した。本研究で扱うミクロデータは、英米大手銀行グループの損益計算書、貸借対照表、既存のアンケート調査である。収益構造と業務展開を考察し、アンケート調査等の先行研究を参考にしながら、マクロデータだけでは見過ごされがちな、両国のマーケットの競争状態に即した英米金融システムの違いに迫ってみた。すなわち、業務展開における抱き合わせ取引の対象を考察した。 本研究では、英米大手銀行グループの業務展開を、①収益構造を皮切りに、②リテールバンキング、③抱き合わせ取引の順にその共通点と相違点を考察した。①収益構造からは、投資銀行業務への移行(米)とその盛衰(英)を把握できた。②リテールバンキングでは、住宅ローン(米)と商工業ローン(英)の大きさを確認できた。③抱き合わせ取引では、企業向けローンと投資銀行業務(米)、預金と家計向けローン(とその保険)(英)という組み合わせを見出すことができた。この組み合わせは、米国では長らく投資銀行による投資銀行業務の寡占が、英国では4大商業銀行による当座預金業務を中心とした寡占が問題視されたことを反映したものであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度には主に国内の英国金融証券研究者へのヒアリング調査を行い、研究代表者の仮説を方向付けし,米国3大銀行グループの引受業務への進出を、英国4大銀行グループと比較し、おおむね正しく捉えることができた。具体的には、本研究課題について,以下の3点で予備調査に進展がみられた。 1)英米大手銀行グループの収益構造における共通点は、サブプライム・ブーム期に投資銀行業務の中のトレーディング業務が相対的に大きかったことである。一方、相違点は以下の通りである。サブプライム危機後、①トレーディング業務が英国において相対的に減退したが、米国において維持されたことである。同じく②手数料収入が英国において商業銀行業務への依存傾向が高まり、一方、米国において投資銀行業務へと移行したことである。 2)英米大手銀行グループのリテールバンキングにおける共通点は、他国と比べて住宅ローンが大きいことである。一方、相違点はイギリスでは商工業ローンが相対的に大きく、アメリカでは小さいことである。 3)英米大手銀行グループの抱き合わせ取引における相違点は、まず①抱き合わせ取引におけるコア業務が英国では預金であり、米国では貸付ということである。次に②英国では主に預金と家計向けローン、保険を抱き合わせており、米国では主に企業向けローンと投資銀行業務を抱き合わせていることである。一方、共通点は、銀行のコア業務である預金と貸付が抱き合わせ取引において重要な地位を占めていることである。 米国では、投資銀行に寡占化された業務に風穴を開けようと、大手商業銀行グループが自らの寡占業務である貸付を主たる商品として、抱き合わせ取引をおこなった。一方、英国では、競合している家計向けローン(とその保険)に対して、競争を有利に進めようと、大手銀行グループが自らの寡占業務である当座預金を主たる商品として、抱き合わせ取引をおこなったのである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題はおおむね順調に進展しているが、米国3大銀行グループの引受業務を考察するにあたり、英国4大銀行グループと比較分析を行うことが有効であることがわかってきた。それは、英米両国は同じく資本市場中心の金融システムでありながら、それぞれ特徴的な商業銀行業務・投資銀行業務と抱き合わせ取引を行っていることが予備調査から明らかになったからである(「5.研究実績の概要」と「7.現在までの進捗状況」参照)。 そのため、平成30年8~9月にロンドンの英国4大銀行グループへのヒアリング調査を新たに行うこととした。研究分担者の宿輪純一教授は大手銀行マンとして英米勤務(ロンドン、ニューヨーク等)の経験があり、英米大手銀行グループの比較分析に関するヒアリング調査の適任者である。 これに合わせて、データ分析も英米大手銀行グループの比較分析に拡張する。長期のTVP(時変パラメーター)-VARモデルによる実証に加えて、パネル・データによる英米の比較分析を行えば、英米大手銀行グループの特徴を数量的に捉える可能性が高まる。この比較データ分析は、本研究の貴重な指針となり、本研究の全体像把握に役立つと考えている。データ分析の詳細は,研究分担者の蓮井康平准教授(Scientific ReportsなどのJournal論文有)が担当する。英米大手銀行グループのPL(損益計算書)の詳細なデータは2001年から分析が可能である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 英国、ロンドンの金融街シティとカナリー・ワーフへのヒアリング調査を行う予定であったが、平成28年度報告書の「12.今後の研究の推進方策 等」作成後、研究代表者に急な学会主催・学会報告(信用理論研究学会秋季大会、於鹿児島市)の依頼があった。当時、同時並行して英国4大銀行グループの予備調査をおこなっていたが、この予備調査が終了せずに、当初のロンドンにおけるヒアリング調査を断念した。予備調査としてはThe Banker誌等の文献・データ調査に加えて国内の英国金融証券研究者を中心に助言をいただいた。上記の理由により次年度使用額が生じた。 (使用計画) このため、研究代表者と研究分担者の計3名でロンドンで英国4大銀行グループのヒアリング調査を行うこととする。合わせて比較データ分析にも経費を補充しつつ、次年度使用額はこれらの経費に充てることにしたい。
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