本研究の目的は次の二つであった。第一は整理解雇をめぐる紛争当事者の試行錯誤して繰り広げる営為の中に内在する規範を究明し、その合理性を検討すること、第二は、整理解雇をめぐる紛争当事者の紛争処理をめぐる内面的要請を浮き彫りにすることである。 資本主義経済において整理解雇を含む雇用調整は皆無にすることができない。整理解雇を含む雇用調整は経営の意思決定で実施する。整理解雇は労働者に大きなダメージを与える。しかしながら、整理解雇をどのように実施するべきなのか、整理解雇をめぐって労使紛争が発生した場合に、損失を最小限度にするために何をするべきなのかといった基本的な問題についてさえ経営学が正面から深く考察することはこれまでほとんどなかった。西暦2000年頃から企業外紛争処理機関が急速に整備されてきた。こうした労働政策の拡充ももちろん重要であるが、それ以上に企業の自主的・自律的な経営政策の整備と実践が有効であり必要である。本研究は自主的・自律的な経営政策の客観的理論を示すこと、そして、国外にも適用しうる具体的な企業の指導原理の構築という長期的な目標の下に進めた。 一般に、紛争はできるだけ早期に規模の小さいうちに終結させることが望ましいと思われている。しかし、こうした一般的合理性とはかけ離れた言動が労使双方に見られる。そうした現象は有名な判決・決定を残しその後の裁判や紛争で参照されるような裁判経験事例で顕著である。本研究は、そうした一般的合理性から乖離する労使の「道理」の姿を捉えようとする試みである。最終年度に発表した原稿では、一般的合理性からかけ離れて訴えを提起する原動力の解明に努めた。本研究の成果は諸外国の研究者たちからのレビューを受け、英文の単行本として発行すべく現在編集作業を進めている。
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