研究課題/領域番号 |
16K03925
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
澁谷 覚 学習院大学, 国際社会科学部, 教授 (00333493)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ネット・クチコミ / 複数クチコミ / 疑念効果 / 確証バイアス / 両面提示 |
研究実績の概要 |
申請時の仮説を整理し、以下の3つの仮説を設定した。 (1)ネット上の複数のクチコミにおいて、他の条件が一定であれば、製品やサービス(以下「対象物」と呼ぶ)に対するポジティブなクチコミの比率が高いほど、対象物に対する評価は高まる。 (2)企業が自社サイトなどに掲載する自社製品・サービスに関する複数のクチコミを参照する場合(「プロモーショナル」条件)は、ポジティブなクチコミの比率が高くなりすぎると、対象物に対する評価は低下する(疑念効果)。他方で複数クチコミが中立なクチコミサイトに掲載される場合(「ソーシャル」条件)は、疑念効果は発生しない。 (3)企業が自社サイトなどに掲載する自社製品・サービスに関する複数のクチコミを参照する場合(「プロモーショナル」条件)でも、消費者が事前に製品・サービスを選択した上で、選択した対象物に関するクチコミを参照する場合(「事前の選択行動あり」条件)には、ポジティブなクチコミの比率が高くなるほど、対象物に対する評価は高まる(確証バイアスにより疑念効果は発生しない)。ソーシャル条件の場合は、事前の選択行動の有無にかかわらず、疑念効果は発生しない。 以上をまとめると、消費者がネット上で対象物に関する複数のクチコミを参照する場合に、それらのクチコミが企業の自社サイトに掲載される場合(「プロモーショナル」条件)で、かつ事前に対象物の選択行動を行っていない場合(「事前の選択行動なし」条件)の場合のみ、疑念効果が発生し、複数のクチコミにおけるポジティブなクチコミの比率が高くなりすぎると、対象物に関する評価が低下する、というのが本研究の仮説である。 2018年2月24日、25日の2日間でCLT実験を行い、計224サンプルの回答データを収集した。分析の結果、上記の仮説が支持され、プロモーショナル×事前の選択行動なし条件においてのみ、疑念効果が発生することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時の研究計画では、初年度(平成28年)に仮説を検証するための実証実験用サイトの設計と作成を行い、2年目(平成29年度)に実証実験を実施する計画であった。実際にこの通りに研究を進めている。変更点は、申請時は複数クチコミにおけるポジティブなクチコミとネガティブなクチコミの比率を、3水準(8対0、6対2、4対4)とする計画であったが、実験では2水準(8対0、4対4)とした点である。これは、実験サイトの作成後に実施したプレ実験において、実験参加者が6対2条件と他2条件とを有意に識別できなかったためである。 平成29年度(2018年2月)に実施した本実験では、仮説のとおりに「プロモーショナル×事前の選択行動なし×8対0」条件のみにおいて、対象物に対する実験参加者の評価が低下するという現象が見られ、これが申請時に提案した「疑念効果」であったと考えている。またこの疑念効果が「プロモーショナル×事前の選択行動あり×8対0」条件では観察されなかった。このことは、上記の疑念効果が事前の選択行動に伴う確証バイアスによって打ち消されたと考えており、このことも事前の想定通りである。 申請時に想定していなかった新たな発見としては、実験参加者を学歴により「大学卒業以上」グループと「大学卒業未満」グループとに分割して分析した結果、「大学卒業以上」グループのみに疑念効果が見られたことがある。この点について考察した結果、疑念効果とは、いわゆる「両面提示」理論における片面提示に対する疑念として発生すると考えている。両面提示に関する先行研究では、この疑念は教育程度や知識が高い場合に発生するとされている。今回疑念効果が大学卒業以上グループにおいて見られたことは先行研究と整合するから、本研究における疑念効果はポジティブなクチコミの比率が高くなりすぎた場合に、対象物に関する片面提示への疑念として発生したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
申請時の研究計画では、3年目(平成30年度)には、2年目までの研究成果のジャーナルへの投稿および国際コンファレンスでの報告を進めるとしている。このとおりに現在国際コンファレンス(ACR)への投稿を進めている。 ACR(Association for Consumer Research)では、2018年10月に米国テキサス州ダラスで開催される年次大会の統一テーマを "Trust in Doubt? Consuming in a Post Trust World" としている。本研究では、疑念効果を英訳では "Doubt Effect" と翻訳しようと考えていたため、この大会の統一テーマとまさに合致すると考えており、現在アブストラクトを投稿中である。査読結果は7月上旬に戻ってくるとされており、査読を通過できればACRのProceedingsへの掲載、および10月大会での研究成果の報告を行う予定である。 また2018年2月に行った実験では、実験参加者に(架空の)オンライン英会話スクールの情報と、スクールに関するクチコミを提示したが、これらをどの程度記憶しているかを実験終了後に紙の質問票で回答してもらっている。この回答データを、実験条件や回答者の個人属性(学歴、年齢、インターネットの利用状況等)と組み合わせてテキスト分析し、そこから何か得られるファインディングスがないかを探索的に検討することを考えている。これらから新たな知見が得られた場合には、これを国内のコンファレンスまたは国際コンファレンスで追加的に報告することを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額として発生した8,972円は、初年度と2年目の助成金を用いて実施した実証実験のための支出の残額である。 3年目は国際コンファレンスでの報告、およびその準備のために、上記次年度使用額と3年目の助成金を使用する計画である。
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