非集計需要予測モデルを,断面データを用いて構築する場合,複数時点からデータが得られていても直近の1時点のデータのみを用いることが多く,貴重な過去のデータを無駄にしていた.昨年度までの研究で,(1) これまでに提案されたモデル更新法では複数時点のデータを用いても直近の1時点のデータのみを用いる場合よりも有意に優れた予測は行えないこと,(2) 筆者の提案した1人当たりGDPの関数でパラメータを更新する方法ではたとえ各時点のサンプル数は少なくても直近の1時点のデータのみを用いるよりも統計的に有意に良い予測を行えること,を示してきた.本年度は,これらの研究成果について国際査読雑誌への投稿準備と投稿を行った. 本年度取り組んだ研究課題に,年齢,時代,世代に着目した分析がある.人の交通行動に影響を与える要因として,年齢(免許の保有など),時代(経済状況や制度など),世代(生まれた時点の経済状況や,人生のどのタイミングでモータリゼーションを経験したかなど)が考えられる.このうち,年齢や世代の効果は時代を経ても引き継がれる可能性があり,この効果を把握することは各時点のサンプル数の削減に貢献できる可能性がある.しかし,年齢,時代,世代の3変数には線形従属の関係があり,その効果の分離は難しい.本年度は,時代の効果を1人当たりGDPで表現することでその分離を試みた.これは,昨年度までの分析で,時代の効果を1人当たりGDPの関数で表現してきたことを利用したものである.名古屋都市圏の1971,1981,1991,2001年のデータを使った交通手段選択モデルの定数項に対して,年齢,時代,世代の効果の分離を試みた結果について国際会議で報告した.
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