研究課題/領域番号 |
16K03935
|
研究機関 | 石巻専修大学 |
研究代表者 |
石原 慎士 石巻専修大学, 経営学部, 教授 (20364325)
|
研究分担者 |
鈴木 英勝 石巻専修大学, 理工学部, 准教授 (80306068)
湊 信吾 石巻専修大学, 経営学部, 教授 (70219690)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 被災企業 / 製品開発 / 未利用資源 / 水産加工残滓 / 学校給食 / 異業種連携 / 高付加価値化 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、東日本大震災で被災した企業や地域の関係者に対してヒアリング調査を行うとともに、学校給食の関係者に対するニーズ調査を実施した。調査の結果、学校給食において国産魚が利用状況が低下しているといった実態を把握し、漁港を有す水産都市の学校給食であっても地場の水産物が用いられていないことが判った。 学校給食において国産魚の利用が低下している背景には、価格の問題に加え、調理の手間や物流に関する問題が存在している。とくに、価格(調達コスト)の問題については、水揚げ状況によって乱高下する国産水産物の取引価格を考慮すると容易に用いることができない。また、調理の手間についても、短時間で調理を行うことが求められるため、簡便に調理できる食材を選択せざるを得ない状況にある。 研究者らは、この問題を解決するために、石巻市の水産加工会社(被災企業)と連携しながら、水産加工後に排出される鮮度が高い魚の中骨をレトルト加工化し、食材として用いる取り組みに着手した。水産加工会社から排出される魚の中骨は、機械でカットされているが、骨の周囲には身が付着しており、レトルト加工化することにより骨まで食すことが可能になる。また、低価格で提供することが実現できるとともに、加熱しているため調理時のオペレーションを簡素化することができる。物流面においても、賞味期限の長期化に加え、常温で保管できるため取り扱いやすくなる。 研究者らは、宮城県女川町と山形県高畠町の栄養教諭と連携しながら、レトルト加工化した魚の中骨を活用した給食メニューの開発に着手し、平成28年9月より両町の学校給食において開発したメニューを提供する試験事業に着手した。試験事業の結果、調理面においていくつかの課題は残されたものの、国産魚を調達する上で抱える課題を解決できる食材であることが判った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水産加工会社から排出される魚の中骨をレトルト加工化し、食材として用いる取り組みは学校給食が抱える社会的な課題を解決する上で有効であることが判った。また、被災企業にとっても、製品の高付加価値化や事業機会を創出する上で有益な取り組みにつながることが判った。栄養価についても、カルシウムや鉄分などのミネラル成分が豊富に含まれていることが判明し、サバについては食品成分表と対比してカルシウムの含有量が通常の約180倍含まれていることが判った。 宮城県女川町と山形県高畠町で実施した試験事業の取り組みは、教育委員会などの学校給食関係者から評価され、専門誌に寄稿文を掲載していただく機会を得ることができた。また、宮城県の学校給食大会や宮城県石巻市の食育関連事業において発表する機会を得ることができ、現在では学校給食用食材としての定着化をはかるための協議が行われるようになった。 しかしながら、レトルト加工化が可能な魚は、その地域の水産加工業において大量に取り扱われている魚種に限定されてしまうことが判った。また、ギンザケのように特定の時期のみ調達可能な魚種も存在しており、時期を逃すと原料の確保が困難になるといった問題も把握した。このような問題を解決していくためには、国内の他産地から原料を確保できる仕組みを構築していくとともに、学校給食関係者のニーズを集約していくことが求められる。さらに、学校給食にとどまらず、水産加工品やスーパーマーケットなどの惣菜原料として用いるなど、多様な事業展開を模索していかなければならない。
|
今後の研究の推進方策 |
【現在までの進捗状況】で述べた問題や課題を解決していくためには、産地間の連携や多様な商品開発を試みていく必要がある。産地間の連携については、現在、主要漁港を擁す青森県八戸市や鳥取県境港市、長崎県松浦市とのアライアンス体制を構築するために、水産事業者に対して協力を要請している。また、研究者らが取り組んできた研究活動や試験事業を紹介しながら、それぞれの産地の学校給食においてレトルト加工化した中骨を活用するように働きかけている。 今後は、学校給食に加え、レトルト加工化した中骨を水産加工品やスーパーマーケットなどの惣菜原料として用いる方策について考察していく予定である。石巻市の水産加工会社(被災企業)とは、レトルト加工化したサバとギンザケの中骨を原料に使用した練りもの製品を開発し、製品化の有用性や市場の受容性について考察する準備を行っている。このほか、惣菜原料として活用する方策については、東京都内のスーパーマーケットと連携しながら、試験事業に着手する準備を行っている。 平成28年度までに取り組んできた学校給食向けの対応についても、水産加工会社や宮城県女川町・山形県高畠町の関係者と連携しながら継続的に考察していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、被災企業の復旧・復興状況を把握するとともに、消費ニーズや市場適応性を探るための調査を実施した。また、各調査の終了後は、試験事業に参画する関係者(被災企業・学校給食関係者・大学)間の合意形成の必要性に鑑み、学校給食向けのメニュー(プロトタイプ)の開発に取り組んだ。このため、研究分担者が実施する予定であった成分分析などの作業は、次年度の研究活動で実施することにした。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、生物学と分析化学を専門とする研究分担者(2名)がレトルト加工化した中骨の成分を科学的に分析する作業にあたる。生物学を専門とする鈴木は、レトルト加工化した中骨の有用成分について分析する予定である。分析化学を専門とする湊は、有害物質等のリスクの有無について分析する予定である。
|