研究課題/領域番号 |
16K03941
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
石川 和男 専修大学, 商学部, 教授 (60300034)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 事業承継 / 後継者教育 / 親族承継 / 第三者承継 / 中小企業 / 流通業 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、特定地域における中小企業における後継者の教育を中心として研究を行った。特に課題としている流通業やサービス業においては、日々の事業運営に忙しく、社内に後継候補者が存在しても、特別の後継者教育らしきものが行われていないことが多い。そこで地域の業界団体の集まりや国の機関である中小企業大学校、都道府県に所在する経済団体を中心として、後継者教育の実態について聞き取り調査を中心に行った。 さらに事業承継がこれまで順調に行われてきた地方の老舗企業といわれる企業や事業者についても聞き取り調査を実施し、当該地域の事業者の集合である組合や個別企業を訪問し、なぜ順調に何代にもわたって事業承継が行われてきたかについて、その基盤や取り組みについての聞き取り調査を実施した。それらについて簡単な文章やレジュメとしてとりまとめ、他の地域での事業承継に関する勉強会において報告し、実際の経営者であり、事業承継の悩みを抱える出席者からの声を聞き、様々なやりとりを行った。 また、国内の地域における後継者あるいは後継候補者の教育だけではなく、海外において中小企業経営者がどのように後継者を見つけ、当該後継候補者にどのような教育あるいは訓練を行っているかについて、アジア圏だけではなく、北米においての状況を所在する研究機関の研究者を尋ね、状況の聞き取りを行った。 これらの研究に関しては、複数の学会や研究会において報告を行っている。また、それらをとりまとめて勤務先の紀要等にも発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の進捗は、研究期間の3分の2を経過した時点であるが、概ね順調に進捗しているといえよう。特に流通業やサービス業に従事する中小企業経営者への聞き取り調査では、多くの経営者による協力を得ることができ、これまで設定してきた様々な課題が漸く明確になり始めたといえる。 特にこれまでの事業承継に関する研究は、公的機関や民間経済調査機関が、毎年ほぼ同じ内容で調査を行い、その結果を数字として公表するばかりであり、実際の中小企業において、事業承継にはどのような葛藤があり、承継を決断あるいは断念してきたかが、あまり明確にされていなかった。しかし、本研究では、全体を表すような結果ではないものの、事業承継において、現経営者と承継候補者(後継者)の葛藤のようなものが少しは描くことができたと考えている。また、これまでの調査でコメントとして若干なされるだけであった状況についても、かなり明確に問題点や課題を記述することができているように思われる。 ただ、これまでの調査は、聞き取り調査では質的調査が中心となり、質問用紙を配布しての量的調査が現在のところ、実施できていない。この量的調査が実施できていない点が、大きな課題といえよう。それはこれまでの質的調査において、企業経営における課題をさまざまな角度からうかがい、それらを量的に示すための質問項目が絞りきれていない点が問題である。これらについては早急に予備調査を実施し、量的調査を行う基盤としたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策であるが、3年間の研究期間の最終年であることから、流通業・サービス業における事業承継前後の課題解明というテーマが、明確な形で結果として得られるように研究を進めていきたいと考えている。特にこれまでの2年間は、流通業・サービス業と比較するために、製造業などの事業者からの聞き取り調査を実施してきた。それは、流通業・サービス業における課題をより浮き彫りにするためでもあった。かなりその相違については、明確になってきたと思われるが、より一層明確化するために両者の相違について言及するための研究を進めていきたい。特にわが国では、流通業・サービス業の事業者が多いにもかかわらず、製造業における事業承継が「ものづくり」の視点から強調されてきた。しかし、流通業・サービス業の「コトづくり」の視点からの事業承継の問題は、より一層深刻になってる。 わが国では小売業の店舗数が減少を続ける中、またサービス業、特に飲食や理美容を手がける事業者が事業を立ち上げてもほぼ1代でその事業継続を断念することが多い。やはりその背景には事業の性格のようなものがあることが思量される。そこで「継続性」「地域」をキーワードとして、これまで血縁(家族)を中心として継続させてきた事業を第三者へと承継する方策についても考察を深めていきたいと考えている。 これまでの研究において、質的調査に偏り、量的調査が行えなかった点を反省し、量的調査への取り組みを始めたい。その第Ⅰ段階として、量的な予備調査を実施することを目標として掲げたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に次年度使用額が生じた理由は、同年度に量的な調査を行う予定であったが、十分な準備ができておらず、質問票用紙の作成、郵送費などの費用がそのまま余ったためである。平成30年度に前年度実施できなかった調査をするため、この費用を充てることを計画している。
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