新製品の普及に関しては従来成功例を中心に研究が進められてきた。それに対して本研究では、失敗を含む普及のダイナミクスを解明することを目指した。当初、耐久財やサービスを対象にすることも視野にあったが、承認された予算の制約もあり、米国における10年間31カテゴリーに及ぶパッケージグッズの購買履歴データを対象に研究を行うことになった。当研究ではニューヨーク大学の石原昌和准教授、Eitan Muller教授らの協力を得た。 本研究では上述のデータの予備的分析から、新製品の普及の成否にはイノベータあるいは初期採用者が果たす役割が大きいと予想した。そのこと自体は従来から主張されてきたが、明確なエビデンスは必ずしもなかったため,本研究では、過去の購買履歴から消費者の革新性を数値化する方法を開発し,それによって革新的と判断された消費者の役割を分析した。 その結果によれば、第1に、消費者の革新性と他の情報と組合わせることで新製品の普及の成功-失敗を早期に予測できる可能性が示された。第2に、革新性を基準に消費者を分類し、お互いの影響関係を異質性を考慮して推定することで、普及の失敗-成功のメカニズムを計量的に推定するモデルを構築した。第3に、革新性によって市場の特徴づけることで、市場による競争ダイナミクスの違いを説明できる可能性が示された。それをエージェントベースモデルに発展させる理論の構築も同時に進めた。これらの点について国内外のいくつかの学会で発表した。 以上の成果は,これまでイノベーションの普及に関する研究であまり対象にならなかったパッケージグッズ領域で得られたことに意義がある。本研究から、そこでは耐久財やITなどと基本的に同じ枠組みで捉えられるが、本質的に違う原理も働いていることが示唆された。そのことはイノベーションを広範に推進する上で重要な発見である。
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