本研究の目的は、日本の新産業都市(集中的な公共投資によって開発された地方工業拠点都市)における商店街の変遷を明らかにした上で、商店街の発展に対して企業社会が与える影響を検討した。本研究では企業社会を、渡辺(2004)に基づき、企業の支配が企業内のみならず、労働者とその家族の政治的・市民的活動、さらにその子供の教育にまで及ぶ社会と定義する。本研究の結果は3点にまとめられる。 第1に、企業誘致に成功した新産業都市においても、市街地商店街は衰退しており、店主の高齢化と後継者不足の問題が深刻化している。 第2に、新産業都市の市街地商店街と、米国のかつての企業城下町の商店街と比較研究した結果、両者の現状が大きく異なることが明らかになった。米国の企業城下町は、主要企業が撤退した後の現状としては、3つのタイプがみられる。①人口が流出し続け、町が消滅してしまった。②不動産価格の低下により、リタイヤした高齢者が町に流入し、商店街の主要な顧客となった。③低廉な不動産価格および優れた自然環境により、若い人々が町に流入して起業した結果、商店街の集客力が高まり、コミュニティの中心となった。米国の企業城下町と比べると、日本の新産業都市は、①町が消滅するまでに人口が減少した都市がない一方、③数多くの若者の移住と起業で商店街が再生されたケースも見られなかった。 第3に、新産業都市において、上述したパターン③のような商店街再生がみられなかった原因は、企業社会とかかわると考えられる。渡辺(2004)が指摘するように、企業社会の下、大企業の従業員とその家族こそが安定的な幸福を享受しうる、という社会通念が形成された。また、企業社会の下、起業して失敗する人のためのセーフティネットが整備されていない。これらは起業家の輩出が困難なものにしている。
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