本研究の目的は,日欧ファッション企業の事業領域拡張による多角化に着目し,「ブランド価値」「専門特化」「連携ネットワーク」を基軸とした視点から「新機軸の多角化戦略」の理論的枠組みを実証的に明らかにし,市場環境の変化に対する顧客ニーズ適合化に資するモデルを提示することである。また,国内外の異業種企業間の水平かつ戦略的な連携を含めた協業事業が新たなブランド価値の深化にどのような影響をもたらすのかも「問い」となる。 研究期間では,研究対象である国内18社(延52回,154時間),国外7社(延15回,65時間)にインタビューと現地調査を実施した。その結果,「新機軸の多角化戦略」には,(1)本業のブランド価値を有効活用する付加的多角化,(2)ものづくり匠集団との水平連携による多角化,(3)事業細分化による予期せぬ多角化,(4)企業組織を強化するための多角化,(5)異業種コラボによる新市場創造の多角化,という5つのパターンの存在を明示した。 最終年度に調査したアルマーニ社は,衣料品以外の鞄や靴,香水,時計等の関連型多角化でブランド価値を構築し,確固たる地位を獲得した。その背景には,創業時の脆弱な経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を補うため,卓越した縫製や販売企業との水平連携が起因となっている。この協業によって,ジョルジオ・アルマーニは,デザイン活動に比重を置き,偉大なデザイナーと認知されことになった。現在,この協業モデルによって高級ホテルやレストラン,家具,リゾート開発等の非関連型多角化を推し進め,上級層の新たな顧客を獲得し,ブランド価値の深化に成功していることを明らかにした。 今後,企業の多角化は,ブランド価値をもつ協業モデルを志向し,相互の価値連鎖を生み出す効果を念頭に市場創造という崇高なビジョンが重要となる。これが経営戦略として,多角化による持続的な競争優位と市場創造へ結びつくと考える。
|