本研究は,19世紀におけるアメリカおよびイギリス鉄道会社の複会計システムを多面的に分析し,その歴史的展開過程を実証的に検討するものであった。 令和元年度は,論文「Hannibal and St. Joseph鉄道会社の会計実務―土地付与政策と複会計システム―」を公表した。本稿では,1847年に設立されたHannibal and St. Joseph 鉄道会社を俎上にのせ,同社に対する土地付与政策と複会計システムを検討している。同社は,供与地を戦略的に活用するため土地部門を組織し,同部門固有の財務表を作成している。この財務表は,他の財務諸表と有機的な関連を有しているため,H&SJ鉄道会社は4種類の財務表による複会計システムを形成していた。同社の組織構造が,勘定体系に影響を与えたということができる。 学会報告としては,Accounting History Review Annual Conference 2019,The Tenth Accounting History International Conference,The 42st Annual Congress of the European Accounting Association等での報告を行った。 アメリカ鉄道会社による複会計システムの利用は,大別すると1860-1870年代(第1期)と1890-1900年代(第2期)に分類することが可能である。第1期の特徴は,株主としてのイギリス人投資家を意識せざるを得なかったため,基本的にイギリス鉄道会社の形式を踏襲するものであった。第2期の特徴は,資産の実在性を誇示するために,通常の貸借対照表ではなく複会計システムにおける資本勘定が利用されたことにあった。
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