研究課題
本研究の目的は企業の税負担削減行動の実態とその決定要因を明らかにすることである。平成28年度は税負担削減行動の指標として利用される実効税率の短期と長期の指標を取り上げ、その実態を分析した。日本企業の実効税率は、短期も長期も40%~45%の区間に含まれる企業が最も多く、短期よりも長期の標準偏差の方が僅かに小さいものの、あまり差異はない。また、実効税率は短期も長期も一定の持続性を持ち、とりわけ実効税率が低いサンプルの方が実効税率の持続性が高いことが明らかとなった。平成29年度は税金費用に対する株式市場の評価を分析した。税金費用の情報内容をめぐっては、他の費用項目と同様に価値喪失に関する情報内容が含まれるという見方と、会計利益とは異なる潜在的な収益性に関する情報内容が含まれるという見方がある。価値関連性研究で用いられる回帰式を利用して、いずれの見方が支配的であるかを検討した。その結果、税金費用には価値喪失と潜在的な収益性のいずれの情報も反映されているが、回帰式に組み込まれた税金費用以外の変数に将来の収益性がどの程度反映されているのかに応じて支配的な役割が変化することが判明した。平成30年度は税効果会計の注記情報から日本企業の税務の実態を分析した。繰延税金資産が繰延税金負債を一貫して上回っていること、繰延税金資産(流動)は安定的に生じているが繰延税金負債(流動)はほとんど生じていないこと、繰延税金資産(固定)と繰延税金負債(固定)はその他有価証券の評価差額を通じて株式市場の影響を受けること、評価性引当額の設定水準が徐々に高くなってきたことなどを明らかにした。さらに繰延税金と資本コストの関係を分析し、繰延税金と資本コストは正の相関を有するが、未認識の繰延税金(評価性引当額)と資本コストは負の相関を有することなどが明らかとなった。
調査報告書齋藤真哉他20名『企業会計制度設計に関する総合的研究(最終報告)』日本会計研究学会,2018年9月,390頁(執筆担当部分:第17章「税効果会計情報の実態分析」249~271頁)。
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