研究課題/領域番号 |
16K03980
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
高橋 賢 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (50282439)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 中小企業 / 原価計算 / 直接原価計算 / 大綱的投資回収計画 |
研究実績の概要 |
当該年度は,産業クラスターを構成する中小企業の会計システムについて主に研究を行った。産業クラスター,特に食料産業クラスターにおける問題点として指摘されるのが,原価計算の欠如というものがある。産業クラスターで商業化された商品について適切な原価計算ができていないため,適切な価格設定ができず,思ったように利益があげられないという現象が起きている。そこで,中小企業において工業簿記や原価計算がどのように行われているのか(いないのか),そしてどのような原価計算や管理会計のシステムを導入すべきかを研究した。 まず,実態として,中小企業では原価計算を伴う工業簿記,所謂完全工業簿記のような形をとるところが少ないという状況が明らかになった。また,適切な管理会計システムが導入されていないため,事業計画における資金計画・利益計画が杜撰であり,そのため運転資金が欠乏し倒産に至るという事例が多いことが明らかになった。 そこで,中小企業に対する有効な管理会計システムとして,直接原価計算の導入を提案した。直接原価計算では,原価・費用の回収において優先順位を付ける。そこで,変動費のあとに回収される固定費についてさらに優先順位を付け,現金支出固定費などの回収が喫緊である費用をいかなるタイミングで回収するのか,という大綱的投資回収計画を提案した。 また,中小企業において簿記を行うということが,経営管理上どのような意味を持つのか,ということを明らかにした。そこでは,記録行為の結果による管理と,記録行為そのものによる管理があることを明らかにし,中小企業では特に後者が重要であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度では,産業クラスターにおける管理会計システムの設計において,(工業)簿記の役割と重要性が明らかになった。また,産業クラスターに参加している企業の多くは中小企業であるが,当該年度の研究によって,中小企業の原価計算・管理会計システムの状況について把握できたことは,本研究にとって非常に重要な知見となった。中小企業への工業簿記・原価計算の導入は,地域的サプライチェーンを形成している産業クラスターにおける様々な意味での価値の測定に大いに寄与するものであり,今後の研究の展開にとって非常に重要なものである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,産業クラスターの「地域的サプライチェーン」という性格に着目して研究を行う。実態としてどのようなサプライチェーンが構築されているのかを明らかにする。その際,同じ属性の組織で構成されるネットワークは平面になると思われる。これは,企業群,大学・研究期間群,自治体・支援機関群でそれぞれ形成されている平面的なネットワークである。産業クラスターでは,そのような属性毎の平面のネットワークが層をなしていると考えられる。つまり,産業クラスターでは,サプライチェーンが平面ではなく,空間で構成されているものと考えられる。その平面のネットワーク同士が,線で結ばれているのか,また新たな面で横断されているのか,という点が,重層的ネットワークにおけるサプライチェーンの実態を明らかにするための鍵になるものと思われる。このような重層的なネットワークで構築されるサプライチェーンの構造を明らかにしたい。そして,そのような重層的サプライチェーンを管理するための管理会計システムの基本モデルを構築したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
意図せず単年度使い切りで執行期間が短い研究費が寄付金として導入されたため,その研究費を本研究の遂行に振り向けた結果,次年度使用額が発生してしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画にあった調査を進めるとともに,次年度使用分については従前の計画にはなかった,仙台で展開されようとしているいちごクラスターのフィールド調査(@80,000円×3回)の旅費として使用する計画である。
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