研究課題/領域番号 |
16K03982
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
大雄 智 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (40334619)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 持分 / 会計主体論 / 資本主説 / 企業主体説 / 残余利益 / 残余請求権 / コーポレート・ガバナンス |
研究実績の概要 |
当年度は、古典的な会計主体論を概観しながら、その本質的な課題を明らかにするとともに、会計主体論とコーポレート・ガバナンス論との接点について試論を示した。会計主体論とは、会計上の観点(point of view in accounting)およびその基礎となる企業観(view of the corporation)をめぐる議論である。企業をどのようにとらえ、誰の観点から会計上の判断を行うかで、資本(持分)と利益の概念が変わりうる。 本研究では、企業形態と会計主体論をめぐる通説的理解、すなわち、所有者経営の小規模企業には資本主説が適合し、所有と経営の分離した大規模企業には企業主体説が適合するという理解には依拠せずに、むしろ資本主説と企業主体説の共通点にも目を向けることにより、会計主体論の分岐点が残余利益(企業の利益から株主の要求利益を差し引いた残り)の概念にあることを指摘した。そのうえで、コーポレート・ガバナンスの類型(シェアホルダー・モデルとステークホルダー・モデル)と会計主体論との関連を検討した。 なお、会計主体論については、かつて、概念フレームワークに関する国際会計基準審議会(IASB)とアメリカ財務会計基準審議会(FASB)の共同プロジェクトにおいても言及されていた。近年では、所有者の観点(proprietary perspective)およびエンティティーの観点(entity perspective)という用語が使用され、概念フレームワークでは後者の観点が採用されている。本研究では、共同プロジェクトにおける議論と従来の会計主体論との本質的な違いを指摘したうえで、会計基準上、残余請求権者をどうとらえるかという問題が未解決のまま残されていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当年度の計画の一つは、従来の会計主体論の成果を踏まえ、今日的なエンティティーの観点と古典的な企業主体説との相違を明らかにすることであった。本研究では、今日的なエンティティーの観点が、資産を支配する主体としての企業を画定することを目的としていたのに対し、従来の企業主体説の主題は、会計上の持分とその変動をどのような観点からとらえるのか、あるいは、誰を企業成果の残余請求権者とみるのかという問題であったことを指摘した。 また、会計主体論とコーポレート・ガバナンス論との接点について、本研究では、残余利益の源泉と帰属という視点から検討した。現代の株式会社では、普通株主以外にも残余請求権者としての性格をもつ利害関係者を想定しうる。そうした想定のもと、資本主説の限界を明らかにし、Anthony(1984)の企業主体説の意義を再評価した。これは、株主価値最大化を目的とするコーポレート・ガバナンス・モデルや株主価値の変動を企業価値の変動の尺度とする企業価値評価モデルを相対化する作業ということができる。
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今後の研究の推進方策 |
現行の会計制度は、基本的には資本主説を採用しており、株主のみを残余請求権者として資本(持分)を測定している。しかし、現実の株式市場は、たとえば従業員もまた残余請求権者であるとみて、株主と従業員との間での企業成果の分配を加味して価格を形成しているかもしれない。このように、会計と市場とで企業成果の残余請求権者をめぐる認識にギャップがある場合には、たとえば、株主持分の価格と簿価との比率すなわち株価簿価倍率(PBR)の解釈も単純ではなくなる。会計主体論については、そうした観点からの再検討も求められており、今後はこの課題に取り組む。 また、投資家やアナリストが、会計基準による株主持分簿価の歪みにどう対処しているのか明らかにすることも今後の課題である。子会社株式の追加取得や在外子会社の財務諸表の換算により株主持分簿価に重要な変動が生じた企業の事例を選択し、その企業のアナリストレポートや決算説明会資料等において、どのような尺度ないし指標にもとづいて財務分析が行われたのか調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額4,304円が生じたのは、購入予定の物品(図書)を執行期限までに発注できなかったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額4,304円は、当年度の物品費(図書費)として使用する予定である。
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