研究課題/領域番号 |
16K03982
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
大雄 智 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (40334619)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 持分 / 会計主体論 / 資本主説 / 企業主体説 / 残余請求権 / 残余利益 / 超過利潤 / コーポレート・ガバナンス |
研究実績の概要 |
当年度は、企業会計上の持分を、企業の投資の成果に対する請求権すなわち投下資本の回収余剰に対する利害関係者の取り分ないし分け前を表すものととらえたうえで、超過利潤(株主の正常利潤を超える利潤)の源泉と帰属の観点から従来の会計主体論を再検討した。いうまでもなく、現行制度では、超過利潤もまた株式の所有者である株主に帰属することになっている。しかし、単なる偶然によって超過利潤が生まれ、それがすぐに消滅してしまうのであればともかく、もし持続的に超過利潤が生み出されるとすれば、その源泉は、株式所有自体ではなく、従業員による企業特殊的な投資や経営者による企業家的活動にあると考えられる。企業成果のリスクを最終的に負担する残余請求権者がいつも株主であるとはいえないとすれば、株主持分とは別に、経過的に企業持分を認識する余地が生まれる。 また、当年度は、プッシュダウン会計をめぐるガイダンスおよび基準を題材に、企業の財務諸表で新しい会計の基礎(new accounting basis)が認識される論拠も検討した。アメリカでは、2014年11月にFASBよりASU 2014-17が公表され、企業の支配を変更させる事象(change-in-control event)が生じたときにプッシュダウン会計の適用を選択できることになっている。かつてのプッシュダウン会計では、請求権の所有者に実質的な変更が生じたときに、新しい所有者(取得企業)の支払対価と取得持分に基づいて会計の基礎が改訂されていたが、現行のプッシュダウン会計では、経済的資源を支配する主体が交代したときに、取得企業による被取得企業の価値評価に基づいて会計の基礎が改訂される。本研究では、企業成果に対する請求権者の観点から、現行のアプローチの限界を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当年度は、前年度に引き続き、FASBおよびIASBの会計基準にみられるエンティティーの観点を、企業成果に対する請求権者の観点から批判的に検討した。また、持分会計論および会計主体論のこれまでの展開とその含意を再考する作業を進展させることもできた。本研究では、企業会計上の持分概念を、企業の資産に対する権利よりも、企業の成果をめぐる利害関係者間の衡平(equity)を意識した概念ととらえている。その視点は、所有と支配の分離によって生じる取り分問題(appropriation problem)と企業会計における利益測定との関連を考察することにつながる。
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今後の研究の推進方策 |
当年度は、2018年3月に完了したIASBの「財務報告に関する概念フレームワーク」改訂プロジェクトの変遷を検討する。本研究にとっては、財務諸表の構成要素としての持分の定義および持分変動計算書の設計が焦点となる。 また、投資家やアナリストが、会計基準による株主持分簿価の歪みにどう対処しているのかを明らかにすることも今後の課題である。子会社株式の追加取得や在外子会社の財務諸表の換算により株主持分簿価に重要な変動が生じた企業の事例を選択し、その企業のアナリストレポートや決算説明会資料等において、どのような尺度ないし指標に基づいて財務分析が行われたのか調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 次年度使用額2,957円が生じたのは、購入予定の物品(図書)を執行期限までに発注できなかったためである。 (使用計画) 次年度使用額2,957円は、当年度の物品費(図書費)として使用する予定である。
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