最終年度にあたる本年度は,次の研究に注力した.
・事業投資の価値を評価するのに,フリー・キャッシュ・フローを現在価値へと割り引く方法が一般的に利用されている.その際に,利用される割引率(事業の資本コスト)は,貸借対照表の借方にあたる事業資産のリスクを反映させるべきである.しかし,実践上は,貸借対照表の貸方に相当する負債・株主資本側の情報から推定された加重平均資本コストが割引率として用いられ,理論と実践の間には乖離がある.そこで,本年度は,エンタープライズ・レベルでの現在価値恒等式をうまく活用することで,資産側の情報を利用して適切な事業の資本コストを推定する方法を検討した.その結果,新たに対数線形・現在価値法(LPV法)に基づく事業の資本コストの推定方法を考案するに至った.そして,その方法によって推定された事業の資本コストは,一般に広く利用されているCAPMやFama and Frenchの3ファクター/5ファクターモデルなどの各種ファクター・モデルを用いて計算されるWACCと比べて,(1)将来の実現事業リターンとの関連性や(2)事業リスクとの関連性が相対的に強いことを発見した.この結果は,従来型の方法に加えて,LPV法も事業の資本コストを推定する方法として有望な選択肢になり得ることを示唆している.当該研究成果は,東北学院大学と法政大学が合同で主催する研究会での報告を経て,小野慎一郎氏(大分大学)との共著論文として,「証券アナリストジャーナル」に掲載された.
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