本研究は,会計記録を広く会計情報システムとして位置づけ,その役割を歴史から探索するものである。会計記録システムは,会計と人のインターフェイスの起点であり,すべての会計情報の基礎である。結果として現在受容される会計記録システムは社会的・文化的側面を強く反映したものである。会計記録がいかに形成され,そしていかに常識として組み込まれ(社会化され)てきたかを,伝票制度という日本に特有の会計システムの展開を探求することにより研究する。 従来の研究においては,伝票制度が銀行簿記と結びついて生成されてきたことについて触れられていた。しかし,それが社会的に定着する過程においては,1930年代の産業合理化運動お存在があることを明らかにした。産業合理化運動が会計との関わりで述べられるのは,商工省の「財務諸表準則」等の財務諸表に関する諸文書に集中しがちであるが,会計記録という点からは,特に中小企業を対象とした会計記録システムの普及促進が見られたのである。その中で,伝票を束ねて帳簿とそのものとするという伝票制度が独自の発展を遂げる。一企業が採用する会計記録機構であっても,そこに政府などの主体が積極的に働きかけるという構図が存在していたのである。 また,会計史研究の意義について研究を報告する機会を「日本会計研究学会」全国大会で得た。中小企業会計に関する言及の歴史的展開に関する報告,そして,会計史研究を「対話」という視点から位置づける報告を行った。これらは『會計』に掲載されている。
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