研究課題/領域番号 |
16K03995
|
研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
佐々木 郁子 東北学院大学, 経営学部, 教授 (90306051)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 顧客関係性 / ロイヤリティプログラム / 東日本大震災 / 原価態様 |
研究実績の概要 |
本年度は,研究課題1「顧客関係性戦略とロイヤリティプログラムの設計,評価および業績への影響」について,当初の研究実施計画に示した通り,過年度に実施した質問票調査を再分析した。この結果,業績との連動は一部の企業のみであること,戦略を意識した使用はまだうまく出来ていないことがわかった。使い方や意義の変化については,分析にあたって,多くのロイヤリティプログラムが電子マネーを導入したことと,大手ポイントプログラムとの併用その原因であると予想した。しかし,再分析の結果,電子マネー化の影響は確認することが出来できなかった。なお,この調査結果については,The IABE-2016 Summer Conferenceにて報告した。 次に,研究課題2「企業のライフサイクルと顧客関係性戦略に基づく収益・コスト構造への変化」について,需要の上昇局面,低下局面における変化は,それぞれのライフサイクルの段階で異なり,業績に与える影響も異なることを明らかにした。これらはまだ分析途中であるが,成果の一部として,Twenty-Eigth Asian-Pacific Conference on International Accounting Issueにて報告した。また青山経営論集に論文を公表した。なお,この研究の過程で顧客関係性は急激な外部環境変化に対する耐性にも関係があるのではないかという新たな研究課題を見つけることができた。 さらに,顧客関係性(B to B)については,東日本大震災からの企業の事業再開および事業継続が顧客の事業再開と強く結びついているということを被災地の中小企業を中心とした聞き取り調査によって明らかにした。成果の一部は,メルコ学術振興財団主催の管理会計セミナーにおいて報告,総合学術雑誌『震災学』に公表した。また熊本学園大学産業経営研究所主催研究会で報告した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題1および課題2ともに,先行研究のレビューと並行して,いくつかの研究成果を示すことが出来ている。 また,課題1については,2016年度後半より管理会計研究学会のスタディグループの主要テーマとして加えられた。スタディグループではサービス業における管理会計研究をテーマとしているが,可視化しにくいサービス業の業績を,顧客関係性,ロイヤリティプログラムについて明らかにすることが担当となった。なお,ロイヤリティプログラムの大規模質問票調査について,スタディグループへの加入を踏まえて,調査対象をサービス業に拡張し,かつ過年度の調査結果と比較可能な質問票調査の設計を行っている。 課題2については,先行研究のレビューを進める一方で,共同研究者とともに分析モデルの企画と試行を行っている。28年度に実施した分析から抽出された問題についても,先行研究レビューを開始している。また,被災地の中小企業の顧客関係性については,20以上の事例が集まった。過年度に分析してきた対象は大企業であるが,これらとは異なる,中小企業間の問題が被災地の復興過程を通して顕著になった。これら2つの調査は一見異なるが,顧客関係性が企業業績に与える影響のみならず,事業継続・事業再開にあたえる影響という点で共通点があると考え,28年度以降の研究対象とした。とくにこれまでは,上場企業のデータを中心に分析したものだった。一方,中小企業はデータがなく事例研究である。規模もアプローチも異なる2つの研究対象ではあるが,顧客関係性と企業業績,リスクからの立ち直りに何らかの共通点があるだろうという新たな研究課題が見つかった。 したがって,研究課題を単純に顧客関係性をB to Cと, B to B(大企業を中心とした製造業)で切り分けていたが,28年度から,中小企業(個人事業者を含む)のB to CとBtoBについても展開している状況である。
|
今後の研究の推進方策 |
課題1については,2017年度は質問票調査を行う予定である。ただし,現在までの研究状況に記したとおり,新たな調査対象先(サービス業)が加わったことや,急速な経営環境や,ビッグデータ分析技術の進歩により,ロイヤリティプログラム自体の意義が大きく変わっているため,過年度に実施してきた調査と若干の変更がある可能性がある。したがって,質問票調査が,当初の予定よりも遅れる可能性もある。ただし,実施時期がずれ込んだとしても,質問票調査を行うことに変更はない。また,管理会計研究学会のスタディグループでの研究も課題1と深く関わるため,スタディグループに合わせた形で,質問票の設計,調査,および分析を実施していきたい。 課題2については,過年度の調査データに,新規の追加データを加えて分析を行う。また,分析には,顧客関係性や原価態様,リスクと関わりのある変数を新たに加え,さらに研究を発展させていく。一定の分析結果が出た時点で,学会での発表またはジャーナルに投稿していく予定である。なお,研究実績,進捗状況で述べた通り,新たな研究課題が見つかっているが,引き続き,上場企業についてはデータの実証分析を中心として研究を行う。 新たな研究課題である,中小企業の顧客関係性の問題について,28年度まで集めた事例について分析を進める。リスクマネジメントや,企業の復旧・復興と顧客関係性について明らかに出来れば,近年大きな問題になりつつある,危機時の企業間関係について何らかの知見が得られると考えている。これらについては,東日本大震災以降ヒヤリングに協力いただいている企業の事例研究を中心に実施する。また,東日本大震災だけでなく,熊本震災をはじめ,その他の大規模災害を受けた企業についても対象とし,中小企業の顧客関係性が危機時に与える影響,危機後の対応に与える影響について分析し,体系化したいと考えている。
|