3年間の研究成果を踏まえ、2018年9月25日に、単著『社会的共通資本の外部性制御と情報開示―統合報告・認証・監査のインセンティブ分析』(日本評論社)を出版した。 本書では、現代社会が抱える社会的共通資本の外部性問題を包括的に考察対象とし、インセンティブ分析の思考枠組みを方法論的基礎に用いて、情報の非対称性等に伴う非効率の改善に向け学際的なディスクロージャー論を展開している。そこでは、自然資本や社会関係資本(環境・地域コミュニティ等)、さらには制度資本(金融・監査)に係る外部性制御に向け、ともに原因者への対応インセンティブを引き出すべく、開示規律を活用した枠組みの下で社会的価値の実現にも貢献する方策を考察した。 本書で特に力を入れて解明したのは、自然資本や制度資本など社会的共通資本に係る外部性制御に向けて、経済主体のインセンティブに働きかけるドライビング・フォースとしての情報開示において、如何に実効的な開示を引き出し、当該情報が外部で適切に評価されるかという問題についてである。所有権を割り当てられない社会的共通資本において、表面的な価格・財務の裏にある外部性問題の解決には、経済主体(消費者、投資家等)の選択行動や評判に影響を及ぼし得る比較可能な非財務情報が必要であり、外部性問題の原因者自らが自分のことは自分が一番よく知っているので、外部性依存度の低減に向け原因者自身が努力するインセンティブを生む制度設計が解明されなければならない。本書では、社会的共通資本の外部性に着目し、その制御のあり方を、情報開示を軸としたインセンティブ分析の理論的枠組みに依拠しつつ多面的に論じたものである。
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