研究実績の概要 |
30年度上期には、経営者の利益の質やガバナンスに対する意識および現状についての回答結果を分析した。その結果、次のことが明らかとなった。(1)日本企業は、経済的事実を反映させて利益、キャッシュ・フローに裏打ちされた利益を高品質の利益としてとらえ、自社のビジネスモデル、所属産業の動向、マクロ経済の行動、自社の取締役会が利益に30%影響を与えているととらえている。(2)70%以上の日本企業経営者が財務報告に対して裁量がほとんど容認されていない、55%の日本企業は、会計基準に裁量を抑制していると答えている。(3)日本企業経営者の50%が経済業績を不正表示するために裁量を用いていると、経営者が考えていることがわかった。(4)経済業績を不正表示する企業の動機に関しては、日本企業は、目標利益を達成するための内部および外部からのプレッシャーがあるためであることがわかった。(5)会計不正につながる危険信号は、日米企業ともに利益とキャッシュ・フローの乖離が最も多かった。30年度下期は、非財務情報であるMD&A情報と会計不正との関連性を検証した。その結果、不正企業と非不正企業のMD&A情報の長さは有意な差は観察できなかったが、読解性は有意な差が観察できた。この結果は、不正企業経営者は、不正に関与するまで議論が長引くため文章が長くなるが、不正の場合、Bushee(2017)の理論によればGood News/Bad News理論によって内容が短くなることから長さは相殺され、有意とならないという仮説1が支持されたものであり、また不正の場合投資者を煙に巻きたいという心理が働き読解性が高まるという仮説2を支持したものとなった。上記の研究は、2018Ethics Symposium, 2018年度国際会計教育学会(IAAER), 2019年度米国会計研究学会法廷会計セクション・カンファレンスで報告した。
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